第2話 仲悪妹の寝言

 次の日の朝、いつも通り洗面所で顔を洗っていたら今日もホタルに出くわした。


「ぶっさ、なにその顔。妹やめるわ」

 

 私の目の下にはクマがびっちり。

 遅くまで勉強していたのもあって、昨日は中々寝付けなかった。


「……」

「なによ。言いたいことあるなら言い返したら」


 ホタルの顔をじっと見る。


 うん、いつも通りのホタルだ。

 いつもの塩辛ホタルだ。


「別に……」

「はぁ、朝からあんたみたいなブサイクを見てたらこっちの気が滅入るわ」

「あんたと同じ顔だから!」


 もうさ、いい加減気づいてほしいよね。

 私の容姿をいじると、自分にも返ってくるってさ。


 ……それにしても、昨日の寝言は一体なんだったんだろう。


 寝言と現実のギャップが温度差がありすぎて風邪引きそうだよ。


「好きで同じ顔になってるわけじゃないんですー、きもっ」

「きもいが口癖になってるから」


 こんな態度のやつが昨日あんな寝言を呟いてたんだよね!?

 一夜明けた今でも信じられないんだけど!


「ねぇ、あんたにお姉ちゃんってもう一人いるの?」

「はぁ? まだ寝ぼけてんの?」

「ううん、おめめはぱっちり」

「あんたみたいな姉は一人しかいないじゃん」


 だよねー。

 こいつにとっての姉なんて私しかいないわけで。


 うーん……ホタルの内心がさっぱり分かんないよ。


 双子同士はテレパシーがあるとかよく言われてるけど、今ここで断言できるよ。

 そんなものは絶対にありません!


「それじゃごゆっくり~」

「マユ」


 え? 久しぶりにホタルから名前で呼ばれた。


「前から思っていたけど、それいちいち親父くさいから」

「うっさいなぁ! いちいち臭い臭い言うな!」

「物理的な匂いの話じゃないから」


 むしゃくしゃした気持ちと一緒に、タオルで自分の顔をくしゃくしゃっと拭く。


 一瞬でも昔みたいな仲良し姉妹に戻れるかと思った私の間違いだったよ! あんなに恥ずかしい寝言呟いていたくせにさ!


「……あっ、そうだ」


 ぷぷぷ、良いこと思いついた。

 今度はあいつの寝言を携帯に録音してやろう。


 あんな恥ずかしいこと言っているのを聞かせたら、今みたいな態度は取れなくなるに違いない。


 私だけいつも牛乳を拭いたボロ雑巾みたいに言われてるんだから、それくらいは余裕でやっちゃうんだからね!





 


 夜、ホタルが寝静まるのを待つ。


 時間はもう十二時を回ろうとしていた。


(眠いよぉお……)


 こういうときに限って、一向にベッドの上にいるホタルの寝息が聞こえてこない。昨日の継続ダメージもあり、私の眠気は最高潮を迎えていた。


(あいつ、携帯いじりながら横になってるな……)


 せっかく弱みを握ってやろうと思ったのに、まるで警戒されているかのごとく携帯の明かりが消える気配がない。


 昆虫のホタルって、発光器が二つになっているのがオスで、 一つなのがメスなんだっけ……? じゃあ私たちは双子だから二つでオスってことになるのかな……。そういえば虫の蛍って、実際には見たことないかも……。いや、いつも虫の居所が悪いのはホタルか……。


「はっ」


 寝ぼけた頭でよく分かんないことを考えていた。

 まずい、このままでは確実に私のほうが寝落ちする。


(今日はもういいや……また明日にしよう……)


 もう限界だよ……。

 心が折れたので布団を頭までかぶった。

 今日はもう寝ちゃお……明日の朝ごはんはなにかなぁ……。


「んっ……」

「……」

「……んぅ」

「……」



 ……なんか諦めたら寝息みたいな声が聞こえてきたんですけど。


 うぅ、体がだるい。

 体が起き上がるのを全力で拒否している。


「はぁ……はぁ……」


 上から苦しそうな声が聞こえてくる。

 大丈夫かな、ちょっとつらそうなんだけど。


「んしょっと……」


 お姉ちゃんパワーフル回転でなんとか起き上がる。

 仕方ない、布団くらいはかけ直してやるか。


「ホタルー? 大丈夫?」


 一言だけ声かけて、ベッドの階段に足をかけた。


「すぅ……すぅ……」

「あれれ?」


 普通に寝てる。

 私に背を向ける形で寝ているので寝顔はよく見えない。


 でも、はからずもチャンスが到来した!


「今日はどんな寝言を言うのかな」


 ワクワク。

 ホタルの寝ている様子を観察してみる。

 

「ふわぁ~」


 規則正しく肩が上下運動をしているのを見ていたら、また眠気が襲ってきた。

 ……よく考えたら私アホっぽくない? そもそも寝言を言うかも分からないのに。


「お姉ちゃん……」


 あ゛っ!!


 ホタルが寝言を呟いた。

 なんだろ、なんだろ! 今日はどんな恥ずかしいことを言うのかな!


「臭い……」

「アホかッ!」


 ホタルの頭を思いっきり叩きそうになってしまった。

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