罪と闇を背負った髑髏

本黒 求

闇に翻弄される聖騎士

「隊長、いつでも行けます」


「分かったわ……行くぞ、お前達!」

 日が沈みすっかり闇が深くなったこの街、”サナッタ・シティ”のとある一角において、部下からアーサニークファミリーの下部組織による、違法品の闇取引現場を差し押さえる為の準備が整った知らせを受けた私は、取引現場である倉庫に突撃を仕掛けようとしている。

 先行して倉庫の入り口の見張りを無力化し、倉庫の入り口の前で私達を待っていた部下達が、私を含む突撃班の合図を確認すると、倉庫の入り口を勢いよく開けた。

 勢いよく扉が開くと同時に、私達は倉庫内に一瞬で雪崩込む。


聖騎士隊パラディン・ナイツだ!

 全員武器を捨て、大人しく投降し……ろ?」

 私倉庫内に突撃した私は、堂々と自分たちの存在を声高らかに名乗り上げる!

 つもりだったのだけど、私は目の前に広がる状況を頭が理解していくにつれて、私の声のトーンは落ちていった。

 なんせ今私の目の前に広がっている光景とは、私達が捉えようとしている悪党達が、纏めて何者かの手によって叩きのめされており、尚且つこの取引の為に用意された違法品が堂々とテーブルの上に広げられている。

 犯罪者が証拠品と共に転がっているなんて、俗に言う”カモがネギをしょっている”と例えられる、なんとも美味しい状況なんだろうけど、私達はありとあらゆる危険を想定し、覚悟を決めて突撃したというのに、こんな状況が目の前に広がっていたら、拍子抜けも良い所……

 だけど、この既に荒らされた現場が【ヤツ】によって作られた状況であるなら、話は全く持って変わってくる。

 現場の状況から見て、まだヤツがこの状況を作り上げてから、大して時間が経ってないと踏んだ私は、周囲に素早く目を向けると、入り口とは別に外に続く扉が半開きになっている事に気が付く。

 恐らくヤツはあの扉から出て行ったに違いない!


「この場は任せた! 私はヤツを追う」

 部下達にそう伝えると同時に、私の得意とする光魔法を使って、己のスピードを極限まで高め、そのまま扉の先目掛けて私は駈け出す。

 光魔法で身体強化された体から閃光を放ちつつ、私は倉庫の外に勢いよく飛び出ると、そこは狭い路地裏に繋がっていた。

(まだ近くに居るハズよ!)


 私はまだそんな遠くに行っていないであろうヤツの姿を、暗い路地裏で目を凝らしながら探し続けていると、暗闇の中でも僅かに黒光りする物が私の目に入ったので、私はヤツがそこに居ると確信し、一瞬黒光りした物が目に入った場所に閃光の如く迫る。

 するとソコには私の読み通りヤツの姿が!

 

「見つけたわよ! 髑髏の闇騎士ダークナイト・スカル!!」

 先の現場を荒らした張本人の姿をハッキリと捉え、私は現場を荒らした犯人に向かって高らかに叫ぶ!

 しかしヤツも、既に私が迫ってきている事を察知していたようで、その手に得物を握りしめ既に臨戦態勢に入っていた。

 よって私も愛剣を鞘から抜いて戦闘態勢に入り、そのままヤツとの距離を一気に詰め、ヤツ目掛けて全力で切りかかる。


”ガキーン!!!”


 私の愛剣と、ヤツの得物が激しくぶつかり合い、暗闇の路地裏に鈍い金属が鳴り響く。


「今日こそ覚悟してもらうわ! 髑髏の闇騎士!!

 我らパラディン・ナイツに対する度重なる公務執行妨害、危険かつ捜査権を持たない人間による越権行為! その他多数の容疑が掛かっているキサマの身柄、今日こそ押さえさせてもらう」

 私は騎士らしく堂々と身柄を押さえる事を宣言した後、私はヤツ目掛けて何度も剣を振る。

 しかし私の放つ剣戟を、ヤツは全て受け流しつつ、一切反撃する様子を見せないまま、ヤツが私からの追撃を振り切ろうとするのは、変わらない。


「毎度の如く、私をやり過ごして逃げようとしているみたいだけど、今日こそは絶対に逃がさないわ!」

 毎度奴を捕らえようとしてヤツと打ち合っても、ヤツはこちらに一切攻撃を仕掛けず、常に逃走経路を意識して動く。

 だから今日こそは”逃がすまい!”と意気込みながら剣を振り続け、奴を捕らえるのに有利な壁側に追い詰めようとするが、ヤツもその事は想定済みのようで、中々ヤツを逃げ場のない場所に追い込むことが出来ないため、拮抗状態が続いている。


「いつもなら、このままやり合っていれば、お前は隙を見つけてこの場から逃げ出すんでしょうけど、今日の私は一味違うわ……奴を囲え、ホーリウォール!!」

 私は逃げようとするヤツの逃げ道を防ぐために、新たに開発した魔法を発動し、私とヤツの周囲に光の障壁を周囲に展開して、閉鎖空間を形成してやる。

 するとヤツはその手に持ったライトアックスを、私が作った光の障壁目掛けて思いっきり振り下ろし、私の展開した障壁を破壊しようと試みたが、その結果は路地裏に【ガキーン!!】と鈍い金属音が鳴り響いただけで、私の展開したホーリウォールはアイツの渾身の一撃を耐えきり、未だに奴を逃がさない為の閉鎖空間を維持し続けている。


「フッ、この時の為に開発した私のホーリウォールを、易々と破る事が出来るなんて思わない事ね!

 さぁ、今日で私とお前の追いかけっこも終わりよ!」

 遂に奴を追い詰めた私は、じりじりと奴に滲み寄り、奴との距離を着実に詰めていると

【グオォォォォォォ!!】

 突如私とヤツの間に漆黒の激しい竜巻が発生したので、私は一端その足を止める事となる。


「くそ、小賢しい真似を!」

 私は目の前で発生した黒い竜巻を、光魔法を込めた愛剣の一撃にて払い除け、今度こそヤツを捕らえるべく、ヤツとの距離を一気に縮めようと足に力を籠めて駈け出すが、竜巻を払い除けた先にヤツの姿は見当たらなかった。

(奴は何処に行ったの?)


 その答えは私にとって最も望まない形で分かった。

 ヤツは先程発生した黒い竜巻で足止めを食らっている内に、私がホーリウォールで作った包囲網で、天井には光の障壁が展開されていない事に気が付いたようで、先程発生した黒い竜巻は、私の目をくらます為ではなく、奴が包囲網から脱出するためにヤツが展開した魔法だった。

 ヤツは自らが巻き起こした竜巻に乗って、建物の上にまで浮上し屋根に降り立つと、屋根の上から私を見下ろしつつこの場から去って行く。

 ヤツがこの場から去って行く姿を、何もできないまま見ていると、ヤツ意外にも目にしたいとも思わない存在のシルエットが、一瞬だが私の目に入った瞬間、とてつもなく嫌な予感がした。

 だから私は、急いで取引現場に引き返す。


「急いで今回の取引で準備された資金を探して!」

 取引現場に急いで戻った私は、ヤツによって叩きのめされた悪党共を縛っている部下達に、今すぐこの取引の為に準備された資金が、この場に残っているのか確認するように指示する。

 どうして私がそのような”指示を出したのか”

 その理由を直ぐに察した部下達は、迅速にこの取引で使われる予定だった資金を探し始めたが


「隊長……既にやられてました」

 そう言って部下の一人が私に見せて来たのは、既に蛻の殻となった金庫と、金庫の中に残された一枚のカード。

 そしてそのカードには、私が忌々しいと思っているもう一人の存在の真っ黒なシルエットが書かれており、私達宛の忌々しいメッセージまで記載されている。


『騎士団の皆様、今日もお勤めご苦労様です。

 今回も皆さんのお陰で、私は大した苦労もなくお金を頂けました!

 また次回も私の為に、派手に暴れてくださいね』


「く....…くっそぉぉぉぉぉぉ~! またしてもやられたわ~!

 あの銀青の泥棒シィーヴィングコラットめぇぇぇ~!!」

 私はやり場のない怒りを込めて大いに叫ぶ。


 こうして私が率いるパラディン・ナイツは、状況証拠を押さえ、不法な取引を目論んだ【悪党を捕らえる】という最終的な目標は達成出来た。

 しかし、そこに至るまでの過程で


 「子悪党その1」である”髑髏の闇騎士”に、今日も先を越されて悪党を成敗された挙句

 「子悪党その2」である”銀青の泥棒猫”に、我々が回収すべき資金を持ち逃げさせる。

 狙った悪党を捕らえるは成功したとしても、子悪党に場を引っ掻き回されている……この街の治安を任された者としては、なんとも納得しがたい内容ね。

 こうして今日も、子悪党二人のお陰で、私のストレスは最高潮に高まっている……

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