第4話 朝比奈透花、再育成(仮)プラン始動!
朝比奈が拗ねた顔をして、いつも通り机に突っ伏してしまった。いやいや、拗ねたいのは俺のほうなんだけど。
「……遅刻はダメだけどさ、おしゃれをしようと思ったのはとてもいいことだと思うよ!」
「……」
「次、機会があったら楽しみにしてるね」
「~~~~っ!」
朝比奈の耳が赤くなっていく。
……多分、今の朝比奈って自分に自信が持てない状態なんだと思う。だから、前どこかで見た掲示板みたいにじゃなくて、できるだけ今の朝比奈の良い所を見つけててやりたいな……なんて思ったり。俺がさっきまで感じていた怒りはコンビニのトイレにでも流してしまおう、ジャー。
「明日は頑張るもん」
「うん、その調子だと思う」
「……」
その後、朝比奈は黙ってしまって口を聞いてくれなかった。けど、表情はずっと穏やかだったので、怒らせてしまったというわけではなさそうだ。
午前の授業を終え、お昼休みになった。
朝比奈が、コンビニのお弁当を机に広げている。俺も自分のお弁当箱を机に広げることにした。
「朝比奈さん、食べながらでいいんだけどちょっといい?」
「んー?」
「この前言ってた、再育成の話をしたいんだけど」
「お~」
朝比奈の背筋がほんの少しだけ伸びる。覇気のない顔をしているが、興味自体はあるようだ。
「授業は寝てばっかりだし、休み時間も寝てばっかり! やっぱり、このままじゃ良くないよ」
「いきなり厳し……」
「だから、昨日の夜、真剣に考えたんだけど、俺から見て、朝比奈さんのここがもったいないなって思ったことを書いてきてみたんだ」
俺は朝比奈の机の上にノートを出した。ノートの表紙にはマジックで“朝比奈透花、再育成(仮)プラン”と書いてある。
「ふむふむ」
朝比奈がお弁当をつまみながら俺のノートに目を通す。俺のノートには大まかにまけて、三つの項目が書いてあった。
・生活態度(授業中起きる・遅刻しない)
・身だしなみ(髪をとかす・服装を整える)
・食事(コンビニだけじゃなくて、できればもう少し栄養あるものを)
うん、真剣に悩んだ割には普通のことしか書いていない。
「これ、全部すぐできるところだと思うんだ。特に上二つは、少し改善するだけで、学校で朝比奈さんを“育成失敗”だなんて言うやつはいなくなると思うよ!」
「へぇ~、そうなんだ~」
「言っておくけど全部自分のことだからな!」
肩の力が抜けすぎて、脱臼してんのかと思った。返事がすっっごく他人事なんですけど。どうやら朝比奈は、本当の本当に自分自身に興味を失っているらしい。
「とりあえず、朝は起こしてあげるから。早速、失敗したけどね」
「久賀君って根に持つタイプ?」
「根に持つというか、改善点を忘れないようにしているだけです」
「うわっ、上手いこと言ってる」
「……褒められたと受け取っておくね」
「褒めてはいないけど」
「そこは褒めとけよ!」
朝比奈の目元がほんの少しだけ柔らかくなっている。多分、今の会話が楽しかったんだと思う。……本当に多分だけど。
「……ちなみに今日は寝坊してないからね」
朝比奈がツンっとそっぽを向いてしまった。何故かこのタイミングで、少し怒ってしまった。
「でも、そんなに心配ならうちに起こしにきてもいいよ」
「うんうん、起こしにね。起こしに……はぁあああああ!?」
朝比奈がびっくりすることを言い始めた。
「っていうか親は!? 朝、起きるくらいなら親に頼めば良くない?」
「うちの親、蒸発しちゃったからさ」
「えっ……?」
「というのは嘘で、今は山奥で隠居してる」
「ざっけんな! 思いっきり地雷踏んだのかと思ったわ!」
めちゃくちゃ焦ったぁ! 元芸能人だから、そういうのって本当にあり得るのかと思った。
「えっ? じゃあ今は一人暮らしなの?」
「うん」
「その歳で?」
「うん、そうみたい」
またしても他人事……。でも、その割には寂しそうな顔も浮かんでいる。
「分かったよ。登校ついでに寄っていくよ。住所はあとで携帯に送っておいて」
なんか今の朝比奈って一人にしちゃダメなような気がする。あんなに素敵な笑顔を振りまいていた彼女に、こんな顔にさせちゃ絶対にダメだよ。
「え? 本当にいいの?」
「自分から言ったくせに……。っていうか、クラスメイトとはいえ警戒心なさすぎない?」
「警戒心?」
「俺、一応男なんだけど」
「……私、芸能界で誰が悪い人かだけは見る目を鍛えられたと思うから。それに久賀君になら、迷惑かけても大丈夫なのかなって……ちょっと思っちゃった」
嬉しいことを言いやがる。そして、ほっと……いやかなり安心した。どうやら、朝比奈から見て俺は、そんなに悪い人には映っていないようだ。
「でさ、再育成って他に私はなにをすればいいの?」
「難しいことないよ。朝は俺が起こす。夜はちゃんと寝る。そして休み時間に寝ない!」
「それ、今この瞬間に実行されたら私の自由時間がなくならない!?」
「なんで昼休みは寝る前提なんだよ!」
「っていうか、どんだけやる気あるの久賀君は」
朝比奈が楽しそうにクスクスと笑っている。その笑顔をみんなに見せるだけで、周囲の反応は全然違うものになると思うんだけどな……。
「ちなみにこの身だしなみっていうのは?」
「髪をとかす。シャツはしっかり着る。あとは笑顔の練習とか?」
「なるほど。笑顔はスキルだもんね」
「そ、そうかもしれないけど今は聞きたくなかった……」
嘘ぉ……あのキラキラした笑顔って実は技術だったの……? 俺がさっきまで、思ってたことがいきなり台無しになったじゃんか。
「とりあえず、これが当面の朝比奈透花の再育成プランということで!」
「お~」
「できればもっと元気な返事をしてほしかった」
「おー」
「変わってない、変わってない」
「ま、頑張ってみるね」
こんなうざったいことを言って、嫌がられるかなとも思ったんだけど、朝比奈は俺の再育成プラン(仮)を受け入れてくれるようだ。よし! なら俺は全力で朝比奈のフォローをしないとだ!
「でも、これだと久賀君って私のマネージャーさんみたいだね」
「けど、実際に朝比奈さんのマネージャーさんはいたんでしょう?」
「うん、私のことを捨てたんだけどね。ま、私のほうが先に見限ってやったんだけど」
「えぇええええ」
まぁ、実際に中学の時はマネージャーやってたしね。にしても、朝比奈と話をしていると、所々ですっっごく闇を感じるんですけど……。
「……久賀君はみんなと違って私のこと見捨てないんだね」
「え? なんか言った?」
「ううん、なんでもない」
朝比奈がボソッとなにかを呟いたが、声が小さすぎてよく聞こえなかった。
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