最終章 それぞれの望み

第15話 僕の会いたい人


「すみません。ある人を探していて。リーエルさんという女性なのですが」


 僕はリーエルさんを探しながらフロッグリーを目指した。あの塔から命からがら逃げて、ビスクに拾われているうちに随分と遠くまで来てしまっていたらしい。


 外の世界は、リーエルさんから聞いた通り人ともので溢れていた。半日近く歩き、ようやくフロッグリーのだいぶ栄えた街に入った。ここなら情報が得られるかもしれない。


「リーエル? ……うーん、聞いたことがないねぇ」


 しかし彼女の情報はなかなか得られなかった。フロッグリーはかなり人口の多い国らしく、たった一人の女性を探すのは骨が折れそうだった。それに人との接触も最小限に抑えなければならない。ビスクの怯え方を見るに、パンチはかなりの腕を持つ隊員に育ったと予想できる。

 優秀な僕の弟がどこで目を光らせているかをちゃんと警戒しなければ。簡単に捕まってしまうのだろう。


「よし」


 せっかくこうして生き延びたのだ。ここで挫けてなどいられない。どこかで読んだ根も葉もない噂だが、人間は実現不可能な願望は自然と抱かないようにできている。リーエルさんと会う事を望むうちは、それを叶えられる状況にあるのだと信じよう。


 それに僕はまだ、全てを知ることができていない。悪いのは誰か、ここまで来たらそれを突き止めたい。せっかく生き延びて、外に出られたのだから。


「…………」


 ふと、一つの露店が目に入った。溢れんばかりの真っ赤なリンゴが台に乗せられて、腰を曲げた老婆が一人で店番をしている。リンゴは幼い頃によく食べていた。久々に無性に食べたくなる。


「こんにちは。リンゴを一ついただけますか?」

「はいどうぞ。好きなのを選んでね」


 パッと目についた真っ赤なリンゴを手に取る。代金を渡すと、彼女は僕の顔をじっと見つめていた。


「とても綺麗な目だ。昔で言う、鳥色の目だね」

「ええ。祖母譲りで、とても気に入っているんです」


 彼女にもリーエルさんのことを尋ねたが、収穫はなかった。もう少しリーエルさんの特徴を知っておけば良かったとどうしようもない後悔を胸に抱く。しかしその代わり、リーエルさんの声だけは鮮明に記憶に残っていた。一応聞き間違えない自信はある。リンゴを齧ってまたやる気を出した。


 僕は耳をすましながら、群衆の間を縫ってまた歩き始める。ロークスティアに捕まる前に、一目でもいい。リーエルさんに会いたい。


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