第9話 悪魔の教え
「待って、どういうことだ……?」
今日、リーエルさんは僕が処刑東塔にいると言った。東塔は緊急処刑で燃やされ、僕の部屋にも火の手が広がり煙が充満していた。しかしそうなると、僕は今日の処刑の対象で、テロリスト”剣マグーヌ”の協力者ということになる。もちろんそんな記憶はない。
ただ、あの部屋で過ごす以前の記憶もない。目の前の幼い自分を見て、その事実に気が付き背筋が凍った。
記憶を失う前の自分は、テロリストの協力者をしていたのではないか。それどころかエリスを含む草原にいた他の子供達も全て、協力させられていたのか。
「……!」
一気に顔が熱くなる。何も知らない子供を誘拐して勝手に協力させて、多くの人を傷つけたのだ。その子供たちは何も知らないまま、今日の緊急処刑で焼かれてしまった。
自分が大切な人を奪われたことは、人を殺していい理由にはならない。そんなの子供でもわかることだろう。いかなる理由があっても、誰かの人生を終わらせてしまった者は決して許されてはいけない。
だからこの男も例外なく許されない。マグーヌ自体は随分と前に処刑され、この世にはいないけれど。
「ウナ族が統制していたかつての世界を取り戻したい。私を含め、なんとか生き延びた一族の全員がそう考えた」
彼を睨んでいると目が合った気がした。彼は何も見えてないようにそのまま話を続ける。
「また一緒に生まれ変わる時まで、持つ力を引き継ぎ守ることにしたのだ。そしてそれは——」
「?」
マグーヌが二人の子供へ手を差し伸べる。二人は目を見合わせてそっとマグーヌの手に小さな手を重ねた。
「これからの時間を長くもつ子供へ授けよう。皆にはもう力を授けている。君たちには二人で多くの能力者たちを率いて欲しい」
”能力とは別に、鳥色の目を持つラクリには皆を統率する力を、女王の印を持つエリスには真実を語り継ぐ伝誦の力を”
そう言ってマグーヌは二人の子供に手をかざした。二つの光がそれぞれ、小さな体に吸い込まれていく。
「もし、死んでしまいそうになったら、その前にこの力を誰かに渡しておくれ。そうすれば、この意思は途切れずに続いていく」
「そうしたら、マグウヌ様は悲しくなくなるの?」
「ああそうさ。失った友や家族にまた会えるのだからね」
「そっか、ならいいよ!」
喜ぶ二人に、そっとマグウヌが人差し指を見せた。それを見て、二人は黙り込む。
「一つだけ。この力は二人で使うものだ。誰かに渡すときは、ラクリとエリス以外の特別な子に渡すんだよ。そうしないと、よくないことが起こるからね」
「うん、わかったよマグウヌ様!」
僕は見えていられなくなり、ぐっと拳を握って目を閉じた。ああ、なんということか。純粋な心を利用されて、僕とエリスの心は彼の支配下に置かれてしまったのだ。
「ラクリ、エリス。私の特別な子よ。どうか、この力を……再び出会う時まで繋いでおくれ」
「私に、選ばれた子よ」
また、世界が歪む。
場所は教会。幼い僕の隣から、エリスが消えていた。
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