10枚目の羽

広之新

プロローグ

 それは月のない暗い晩のことだった。静まり返った街を一人の男が走っていた。それも何度も何度も後ろを振り返りながら・・・。彼は追われているのだ。

 そのうち息が切れて立ち止まり、膝に手を当てて休んだ。ここまで逃げてきたのだからもうまけただろう・・・彼はゼイゼイと荒い息をしながら来た道を見た。するとコツコツと足音が聞こえ、人の黒い影が近づいてきた。


「○!※□◇#△!」


 男は叫んだ。それは外国語のようで何を言っているか、全くわからない。だが彼が恐怖に駆られて発しているのが確かだ。

 このままでは危ない・・・男はどこかに隠れようと辺りを見渡した。すると近くに廃墟と化したビルがあった。幸い入り口のドアが開いていた。男はそこに逃げ込んだ。だが追いかけてくる人影も通り過ぎることもなく、そのビルに入っていった。その中でまたあの足音が響き渡る・・・。

 男はビルの中を必死に逃げ回った。中は迷路のように複雑に入り組んでいる。男は階段を上り、廊下を走り、部屋を通り抜けて・・・だがいきなり男は取り押さえられた。人影がその男をがっちりと捕まえたのだ。


「◎△$♪×¥●&%#?!」


 男は必死に命乞いをしているようだ。だが人影は容赦しない。その頭を抱えてぐっとひねった。


「うぐっ!」


 男が声を漏らして崩れ落ちた。その目は恐怖で見開かれたままだ。人影は髪の毛に刺してあった1枚の長い黒い羽を手に取った。そしてかがみこむと死んだ男の服に突き刺した。


「○×△☆♯♭●□▲★※」


 人影はその言葉を残して夜の闇に消えていった。男に突き刺さった羽は夜風にゆらゆらと揺れていた・・・。


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