かかし、とカラス

夏空 花火

1話目

 突然ガッと頭部を鋭くつかまれた。

「な、なんだ!?」

「あいかわらず、暇そうだな」

悪びれもなく、頭上のカラスが言う。

「うっせえ、かかし様の頭に勝手に乗ってんじゃねえ」

振り払おうと、体を必死に揺らそうとする、が風に揺さぶられるだけだった。

「そんなんじゃ、友達もできないぜ」

「友達もなにも、何もねえじゃねえか!!」

収穫期を終えた広大な畑に、ボロ布と季節ハズレの麦わら帽子を身にまとった、かかし。

そりゃそうだ、と楽しそうにカーカーと鳴く。

「おっと、カラスが鳴いたら、帰りましょってなあ」

じゃあ、またな、とカラスは全身に夕日を浴び、風に乗って空高く舞い上がる。そのまま群と合流し、すぐに溶け込んだ。

「おい、何してたんだ?」

「遅いぞ!」

くちばしで互いを軽くつつき合いながら、じゃれ合う。

「ああ、またな」とカラスには、聞こえない声でその後ろ姿を見送った。残った夕日は、かかしの影を地面に縫い付け、今日も冷たい風を吹きつける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

かかし、とカラス 夏空 花火 @natsuzora-hanabi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ