【短編】変わりゆく痛み

星野光留

同窓会なんて……

成人式の夜。

同窓会を終え、飲み屋街から抜けて、別れ道に差し掛かったところで、友達は「私、こっちだから」と言い出した。


またね、と、挨拶して、友達の背中を見送る。

あの頃も、こんな風にして別れたっけ。


ふいに、先ほど行われた同窓会で、友達に言われた言葉がフラッシュバックした。


『中学生のときから変わらないね』


それは友達を含む私たち、ではなく、私に向けて言われたような言葉に思えた。

本人はいたって笑顔で、まったく悪意などなく、むしろ褒め言葉のように使っていたけれど、喉に刺さった魚の小骨のような不快感が、依然として残っている。


私と彼女は小学生からの付き合いだった。

当時は親友と呼べるほど仲の良い間柄だったのを覚えている。


私は地味だった。それは今でも変わらない。

内気で、自分を表現することが苦手で、運動も苦手で、騒がしいクラスに馴染めなくて、でも成績だけは良くて、それが誇りで。


心から分かりあえる親友が欲しくて。


そんな私に、好きな本を勧めてくれたのが、彼女だったのだ。私と同じような悩みを持ち、同じように読書が好きだった彼女は、少しずつ仲良くなって親友になることができた。

私がスマートフォンを持つ前に彼女は引っ越してしまったけれど、大人になったら、また会おうと約束していた。約束を果たすには、今日は良い日で、あの子なら来てくれると信じて、そして、約束は果たされた。


だから、心の何処かで、成人を迎えても同じように仲良くできる思っていた。


それが、どうだろう。彼女はすっかり女子大生。

髪を染め、メイクをし、SNSのキラキラした女の子たちが着るような、可愛らしい服を着て、すっかり垢抜けている。

驚きの他に別の感情が芽生えたのを感じたが、ぐっと押し殺して、私は明るく言った。


『そっちは変わったね。まるで別人みたいだよ』


私達が、変わることも、変わらないことも……きっと悪いことではないのだろう。それを好意的にとらえるか、非好意的にとらえるかは、受け手の問題だ。


だから、変わらない自分を恥ずかしく思うことも、変わってしまった友達に寂しさを覚えてしまうことも、きっと悪いことじゃないはず。


この心の痛みだって悪いものじゃないはず。


そう思いたい。


すっかり時間が経ってしまった。

消えてしまった友達の背中に、そしてその友達のおもかげに、少しの名残惜しさを覚えながら、私はその場をあとにした。


同窓会なんて……行かなければよかった。



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