聖女Lv.100

藍無

第1話 聖女

「へっ、ふざけんなよ!! 俺は汚い人間どもを掃除ころしただけだぞ!! なんで、俺が殺されなきゃならねえんだ!!」

 断頭台の前で、罪人が叫ぶ。

「だまれ!」

 処刑人が一喝して、断頭台に罪人の首を置いた。

「最後に一言だけ言わせてやる。」

「とっとと滅びちまえこんな国!!」

 罪人はそう叫んだ。

 次の瞬間罪人の首ははねられ、空へ舞う。

 私は祈った。

「来世では救われますように。」

「流石だ。聖女様はお優しい。あんな罪人にまで慈悲の心を持たれている」

 人々は口々にそう言って私のことをほめた。

 けれど、みんなは誤解している。私は優しくなんかない。

 世の中でいう生ぬるい優しさを私は持っていないのだ。

 だって、私がそう祈ったのは、あの罪人がおのれの罪の重さを理解できていないからだ。罪を償うにはまず、その罪の重さを理解するところからなのだ。

 私の祈りには、特別な力がある。

 私の祈ったことは本当になる。もちろん、その能力にも限界があるが。

 私の言った救われますように、というものは、聖人として生まれ変われますように、ということだ。聖人に生まれ変わることができれば、きっと前世で自分の犯した罪の重さに、心が張り裂けそうになるほど苦しむことになるだろうから。そして、その罪が許される日は到底来ないだろう。

 私の祈りによって、あの罪人は聖人に生まれ変わる。

 どうか、あの罪人が聖人に生まれ変わって苦しみ、己の罪の重さを理解できますように。そう願った。

 処刑の丘から、人々は笑顔で去っていく。

 まるで、見世物を見終わった見物客たちのように。

 最近、罪人の処刑を娯楽としてみる人間が増えている気がする。

 このままだと、まずいことが起こるかもしれない。

 私は、直感的にそう思った。

 まあ、そうなったらその時に対処すればいいのかもしれない。

 そんなことを考えながら私は教会に帰った。

 教会では司祭様が祈りをささげ終わったところだった。

「おや、聖女様。お勤めご苦労様」

 にっこりと穏やかな笑みを浮かべて司祭様は私にそう言った。

「はい」

 私はそう言って、いつも通り部屋へ戻った。

 部屋に戻ると、私は日記帳をひらいた。

 正確には日記帳ではないのかもしれないけれど。

 その日記帳には私が今までに予知した未来が書いてあるのだ。昨日の予知によると、来世、私は地球というところのにほん、と言う国に転生するらしいのだ。そして、その国にある『おとめげーむ』というものにでてくる世界がこの世界と同じ世界ならしい。なんと、その『おとめげーむ』には、この教会の司祭様――エフィスも『こうりゃくたいしょう』として出てくる、ということが予知ではわかった。他の『こうりゃくたいしょう』は予知では上手く見えなかった。

 しかも、その『おとめげーむ』での主人公は私だと予知では言っていた。

 一体どういうことなんだろうか?

 予知した私自身も情報量が多くていまいちよくわからない。

 私は、その内容を改めて日記帳に整理した。

 うーん、あの予知、本当にあってるのかなあ?

 自分でも自分の力を疑いそうになる。

 でも今までに一度も予知が外れたことはないんだよね。

「はあ」

 わけがわからない来世についての予知になんとなく私はため息をついた。

 そういえばだが、今日はまだ聖力が残っている。昨日の続きを予知してみようか。

 まあ、聖女の力は世界を救うためにあると司祭様に教え込まれていたが、そのおとめげーむとやらの世界はこの世界と同じ世界ならしいから、おとめげーむについて予知することと、この世界について予知することは同じなのだ。そう自分に言い聞かせて私は、

『予知』

と唱えた。

 すると、目の前がまぶしい光に包まれる。

 しかし、その光は一瞬でおさまり、代わりになにかの画面のようなものが映った。

 そこには、司祭様がいた。

『ふふっ。あなたが私の好みになるように私が、今まで育てたんです。他の奴になんか渡しませんよ。』

と、私の見た目をした者に向かって言っている。どういうことだろうか?

 全く意味が分からない。わかりたくない。

『ど、どういうことですか?』

 画面の中の私も混乱している。

『つまり、あなたが好きだということです』

『そ、そんな――教会は清貧を重んじていて、そういうことは良くないとされています。司祭様がそんな方だったなんて――』

 裏切られて少し驚きと悲しみの混ざった表情で『私』はそう言っていた。

『だまりなさい。私はこんな金と欲におぼれた宗教なんか信じていません。誰もそんな教えなんて守っていないでしょう。表ではみんな守っているような顔をしていますが、裏では私のようなものがほとんどですよ』

 腹黒い笑みを浮かべて司祭様はそう言っていた。怖い。

『そ、んな』

 怯えたような表情で画面に映っている私はそう言った。

 そこで、予知は途絶えた。

「そんな、わけはない、よね??」

 私はどうしてもその予知で見たものを否定したくて誰にともなくそう言った。

「どうしたのですか?」

「ひゃあ!?」

 私は驚いて振り返る。

 すると、そこには司祭様が立っていた。

「し、司祭様!? どうして私の部屋の中に?」

「少し前に扉をたたいたのですが、返事がなかったので万が一のことがあったら大変だと思い、部屋に入ってしまいました。何事もなかったようで良かったです」

 司祭様はそう言った。その笑顔は、いつも通りに穏やかな笑みであるはずなのにどこか闇のようなものを感じさせる怖い笑顔だった。

「あ、そうなんですね」

 私は、不自然に司祭様から目をそらしてそう言った。

 言えない。

 今まで変な予知を見ていたなんて。

 司祭様は不思議そうにこちらをみていたが、その後、

「まだ、聖力は残っていますか? けが人がいるのですが」

と聞いた。

 どうやら、聖力でけが人の傷を治させようと思って私の部屋を訪れたらしい。

「はい、もちろん」

 予知一回と祈り一回程度でつきるほど私の聖力は少なくはない。

 前例がないほど私の聖力は強いと前に司祭様が言っていた。

 そして歴代の聖女は予知をみたら、必ず聖力を失い、倒れていたとも。だから、歴代の聖女は一代につき一回しか予知ができなかったとも言っていた。

 そういうところからも私はやっぱり何か特別なのかなあ?と考えていると私はけが人の所へ案内された。

『治癒』

 いつも通り私はそう唱え、一瞬にしてけが人の大きな傷を治してみせた。

「ありがとうございます。聖女様」

 けが人は微笑んでそう言うと、教会から去っていった。

「先ほど、予知を見ていたでしょう?」

「え?」

「強い聖力のあとがみえたのでわかりましたよ」

 まじか。

 司祭様、そんなところまでわかるのか。怖い。

 でもまさか、司祭様のことを予知したなんて言えない。

「あ、はい。ちょっと」

「どんなことが予知できましたか?」

「えっと、今日は調子が悪かったみたいで、晩御飯しか見えませんでした」

 わたしはとっさにそう嘘をついた。

 しかし、嘘をつくのはなれておらず司祭様からつい、目をそらして、そう言ってしまった。

「へえ、そうなんですか。で、晩御飯はなんでしたか?」

 まずい、これはあやしまれているか?

「えーっと、赤りんごと、パンと、干し肉、です」

 私は考えながらそう言った。

 今までのご飯のメニュー的に確立から言うならこのメニューである可能性が高いだろう。すると、司祭様はにっこりと笑って

「正解です。よくわかりましたね」

と言った。

 どうやら、司祭様はすでに晩御飯のメニューを知っていたらしい。

 あっていてよかった。

 間違ってたらかなりまずいことになっていただろう。

 そんなことを思いながら晩御飯までの間、私は自分の部屋でゆっくりしようと思い、部屋へ戻った。

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