第42話

「嘘よ!」

「思い出してくれ。今までの年月を嘘にしないでくれ」

 将吾は妻を抱きしめる。


「そんなに怒るってことはそれだけ俺が好きってことだよな。うれしいなあ」

 のんびりと言う将吾に、香奈枝は毒気を抜かれてしまった。


「だけど、愛してほしいなら素直にそう言ってほしい。ていうか、もうとっくに愛してるんだけど」


 香奈枝は号泣し、何時間も話し合って二人は和解した。


***


「最初から説明しておけばこんな誤解は起きなかったのに」

 晴仁はあきれた。


「だけど、助けるために結婚するなんてありえないわ。ほかにも方法があったでしょうに」

「あのときはそれが良い方法だと思ったんだよ」

 将吾が言い訳するように言った。


「あなたも嫌だったでしょう。結婚なんて大事なことを」

 和未は慌てて首を振った。


「たくさん助けていただきました。御恩は一生忘れません」

「このまま晴仁さんと結婚を続ける気はないの?」


「母さん!」

「和未さん、行くあてもないんでしょう?」


「そういうことはこちらで話し合うから。もう行こう」

 晴仁は和未を立たせ、歩き出した。

 和未は香奈枝たちに頭を下げ、慌てて彼についていった。






 彼は和未を乗せ、車を走らせる。

 海が見えると、和未は車の窓にはりついた。


 高校の修学旅行で見た以来だった。

 海岸線に、白く波が立つ。繰り返し寄せる波を見ていたら、車が駐車場に入って行った。


 晴仁と一緒に公園の端まで歩いた。

 よくわからないオブジェがあり、花壇には色とりどりの花が咲き乱れていた。少し離れたところに鐘があり、カップルが笑いながら鳴らしていた。


 空は青く、海が良く見えた。遠くまで見通せて、広々とした空間が心地いい。


「我ながらベタだなあ。でもほかに思い付く場所がなかったんだよな」

 晴仁がつぶやく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る