第6話

和未はみじめな気持ちでうつむく。

 仕事もせずに家にいるのは、就職を禁止されて広い家の家事を全部やらされているからで、スーパーに買い物にだって行っている。


 家事をきちんとする条件で、公立の高校までは行かせてもらえた。

 家にいなくていい時間がうれしくて、学校では勉強をがんばった。


 だが、大学は受験すらさせてもらえなかった。

 卒業後、二十五歳になる現在まで家政婦代わりにこきつかわれた。


「私は若い子の肌が好きでね」

 権蔵はにやにやしながら和未の手をとり、驚いた様子を見せた。


「荒れてるな」

「……申し訳ございません」

 炊事洗濯、草むしりなど、すべての家事を素手で行い、ハンドクリームなどもらえないから手入れもしていない。がさがさであちこちが切れ、赤く腫れていた。


「まあいい、すぐに治るだろう」

 気を取り直して彼は言う。


 コーヒーが届いても和未は飲まなかった。このような飲み物は紅愛たちが嗜むもので、和未に許されたのは、水道の水だけだ。


「やせているのは偏食だからか? それでは元気な子供は産めないぞ」

 舌なめずりをして、権蔵が言う。


 和未はさらに深く絶望した。

 結婚するなら、そういう行為をしなくてはならないだろうとは思っていた。

 その上さらに、この人の子供を産み、育てなくてはならないのか。


「部屋をとってある、まずはそこで確認しようか」

 権蔵が立ち上がる。


 和未はおびえて彼を見た。なにを確認するというのだろう。

「処女と聞いているが、楽しみだな」


 和未の顔から血の気が引いた。

 まさか今日、そういうことをされるとは思わなかった。

 だが、拒否したらどうなるかわからない。定規で殴る程度ですまないことは明らかだ。


 和未が震えながら立ち上がったときだった。

「そこまでだ」

 男性の声がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る