第13話 2つ、恋

心臓の高鳴りを感じながら俺は三島からゆっくり離れた。

好きとは言われたけど俺は応えれない。

俺は。

女性を苦手になっている。


時計の針の音が響く中。

俺は沈黙の流れる空間を引き裂く様にゆっくり言葉を発した。


「三島。ありがとう」

「な、何が?」

「俺はお前が委員で良かった。お前に出会えて良かった」

「わた、私も同じだけど」

「この仲は大切にしたい。だから...俺が否定してもこの仲を維持してくれるか?」


三島はその言葉に頷く。

強く頷いてくれた。

俺は笑みを浮かべてから「ありがとう」と言ってから三島を見る。

三島は「その」と話した。


「私が...告白したのは佐沼くんが...自殺をまたするんじゃないかって思ったから」

「...そうなんだな」

「うん。私は...佐沼くんが好き。だから死んでほしくない...から」

「...」

「お願い。死なないで...」


三島は震えながら涙を流す。

涙声になりながら必死に訴えてきた。

その顔を見ながら俺は三島を抱きしめた。

それから頭を撫でる。


「もう、死なない様にする。自殺を考えるとかはもう無いから」

「...ありがとう。...隼人くん」

「...隼人くん?」


その言葉に三島は「...隼人くんは隼人くん。だからこれからそう呼ぶよ」とはにかむ。

「隼人くん。もし良かったら私の事も瀬奈って呼んで」とも言う。

俺は衝撃を受けながら三島...じゃなくて瀬奈を見る。


「瀬奈って...!?」

「私の名前は三島瀬奈。だから瀬奈だよ」

「い、いや。分かるけど。俺はあまり女子を名前では呼んだ事は」

「私は呼んでほしい」


瀬奈はジッと俺を見る。

俺は赤面しながら頬を掻いた。

それから瀬奈に対して「分かった」と返事をしてから「せ、瀬奈」と言う。

すると瀬奈は「うん」と笑顔で返事をした。



俺は瀬奈の家の玄関を開けて表に出る。

それから「じゃあまた明日」と俺は挨拶をしながら瀬奈を見る。

瀬奈は「今日はありがとう」と言ってきた。


「...ありがとうはこちらのセリフだ。...瀬奈。俺を好きになってくれてありがとう」

「...好きになるって不思議だね。隼人くん」

「まあ...俺はまだよく分からないけどね」

「だ、だね。ごめん」

「謝る必要は無いよ。ありがとう」


それから瀬奈に手を挙げてから「また」と言ってから瀬奈を見る。

瀬奈は俺を見てから笑顔になり「また明日」と言ってきた。

そして俺は帰宅する為に歩き出す。



「花園?」

「あ、佐沼くん」


家に帰ると花園が居た。

俺を見てから笑みを浮かべながら鍋を持ってから駆け出して来る。

俺は「?」を浮かべてから花園を見る。


「もー。どこに行っていたの?」

「ああ。すまん。瀬奈の家に」

「え...瀬奈って...」


花園は固まる。

俺はそんな花園に「あ、ああ。実は」と説明を始める。

三島瀬奈に告白された事を。

すると花園は「そ、そうなんだ」と言ってから俯く。

俺は「?」を浮かべてから花園を見る。


「これ。肉じゃが」

「あ、ああ。有難う...花園?」

「じゃあ」


そして花園は去って行ってしまう。

あまり説明が無かったんだが。

彼女はどうしたのだろうか。

そう考えながら俺は花園を見送る。



先に告白されちゃった。

私は彼女の想いに気が付いていたにも関わらず止められなかった。

だけど。


「私も好き...だから」


私はそう呟きながら嗚咽を漏らす。

馬鹿だ私は。

手を打たなかった私が悪い。

そう考えながら私は嗚咽を漏らしていた。


「お姉ちゃん?」


雪道が私に声をかける。

それから「どうしたの!?」と慌てる。

私はそんな雪道に泣き顔を見せながら全てを説明をした。

すると雪道は「そんなの今から刻めば良いんだよ!」と怒る。


「今から刻む?」

「手遅れになるよ。彼にしっかりアピールしないと」

「...」

「まだ今からだから」


それから雪道は背中を押してくる。

外に向かって、だ。

そして微笑む。

私は「ゆ、雪道?」と慌てる。

だが雪道は「告白するまで戻って来たら駄目」と私に構わず告げてくる。


「待って!?それは!」

「私はお姉ちゃんが負けヒロインになってほしく無い。だから告白するまで戻って来たら駄目」


私は赤面する。

それから雪道は玄関を閉めた。

鍵までしっかり、だ。

私は唖然としながら盛大に溜息を吐いた。

すると。


「花園」


そう声がした。

私はビクッとしながら背後を見る。

そこに佐沼くんが立っていた。

心配げな顔をしながら私を見つめている。


「どうしたんだよお前」


私はそんな佐沼くんに赤面で慌てる。

それからオドオドしながら踵を返した。

そして逃げようとしたが。

その手を佐沼くんが引き寄せた。


「ま、待って。佐沼くん」

「待ってって言われても。お前が心配だからさ」

「...」


お願い。

そんな目で見ないで。

私はそう願いながら佐沼くんを見る。

佐沼くんは私を見てからますます「?」を浮かべてから赤くなっていく私を見る。


「お前なんかいつもよりおかしいぞ?」

「へあ?!わ、私はいつも通りだけど!?」

「いや?いつもより何だかおかしい。熱でもあるのか?」


離して、という感じで慌てるが。

やがて涙が出て行動が。

力が無くなった。

それから涙を流す私。

佐沼くんは衝撃を受けた様に私を見る。


「...」

「...」


私達は無言になる。

それから会話が出来なくなる。

私は佐沼くんを見る。

佐沼くんは落ち込んでいた。


「すまん。俺が何か傷付けたか?」

「い、いや。そういう事じゃ無いよ?」

「...すまん」


佐沼くんは苦笑した。

それから踵を返してから「おやすみ。肉じゃがありがとうな」と去ろうとする。

私は唇を噛みしめる。

それからまるで外国に行ってしまい遠くなりそうなその顔に私は佐沼くんの手を掴む。

そして私は佐沼くんを振り向かせる。


「!?」


気が付くと私は佐沼くんにキスをしていた。

それから唇を塞いでいた。

私は顔を離してからそのまま佐沼くんを見る。

もういいや。

こうなった以上は覚悟を決めた。


「私は貴方が好き。佐沼くんが世界で一番大好きなの」


佐沼くんに対して大声を発した。

それから愛を表明する。

佐沼くんは愕然としながら私を見てくる。

私は佐沼くんを抱き締めた。


「私は愛を表明するのが下手くそ、だから。だから貴方に、酷い目を」


私はそう言いながら涙を流す。

すると佐沼くんは「そうだったのか...」と私を見てくる。

震える私の肩を掴みながら見てくる。


「...そうだったんだな。...気が付かなかった」

「...私が鈍感で。アホで。だから貴方に不愉快な思いをさせたの。ごめん。佐沼くん」


それから私は佐沼くんを見る。

佐沼くんは私を見てから赤くなっていた。

そして私達は無言になってから暫く抱き合っていた。

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