第9話 Girls have Expect
いや、フツーにすごいなぁ。楽しみにはしてきたけど、ここまでとは思わなかった。
後ろにいる空音を見ると、同じように感動しているみたいだ。とゆーか、口が半開きだぞ空音ww。まあ、それは私もだけど。
改めてあたりを見渡す。背の高い棚の中にびっしりと銃弾の入った箱が並べられている。カウンターの後ろには壁にかかったまま、飾られている。
相変わらず壮観だな。
この店に寄り始めたのはハンターの勉強を始めてからだからそんなに経っていない。だけど、まあ、それからほぼ毎日放課後に寄ってる。
それでも、毎回ワクワクしてしまうから不思議だ。ヒマリや五味さんもこんな気分だったんだろうか?
「アキー、ちょっとこれ塗って海岸行ってきてよ」
空音が何か持ってきた。
いや、もう笑い堪えきれてないし。
ゼッタイ変なの持ってきてるじゃん。店のもので遊ぶなよ。
私としては嫌な予感しかしないが、まあ、一応、覗いてみる。
案の定、嫌な予感が的中した。
空音の持ってきた缶にはこう書かれていたのだ。
「GUN OIL」
「銃の手入れにはこれ一本。錆止め・潤滑剤としてご使用いただけます」
「肌じゃなくて銃の手入れしてどうする」
どうやら空音は私のツッコミがツボに入ったようで、腹を抱えながら肩を震わせている。何がそんなに面白いってんだ?ェ?
まあ、でも、今のは我ながら的確なツッコミだったと思う。海岸に行くとき使うのは、サンオイルだ。ガンオイルは銃の部品の滑りをよくして、錆を防ぐヤツ。ガンオイルを塗って、海岸に寝そべっていても肌のダメージを抑えたキレイな日焼けはできない。とゆーか、余計に肌を痛めそう。とゆーか、痛める。マネしちゃだめゼッタイ。
「アキー、これなんだろ?やたらちっちゃくね?」
空音が私を呼んだ。空音が指した先にあるハンガーにはジャケットがかかっていた。
今度はなんだ?また、ボケる気か?
ェ、なんだ?コレ。初めて見た。
そのハンガーにかかっていたのは袖のないベストだった。この手のベストは集団で狩猟をするときに間違って仲間に撃たれないようにするため、派手なオレンジ色になっている。モンスターの大半はたくさんの色を識別できないから派手でもあまり関係ない。
とゆーわけで、ベストの形と色はフツーの狩猟用ベストだ。私が不思議に思ったのは、そのサイズだ。人間用にしては小さすぎる。空音の服の3分の2くらいの大きさで、ちょうどへそくらいまでの大きさしかない。子供用?でも、子供は猟に参加したりしないしな~。誰用なんだ?
「それはハーピー用の防牙ベストですよ。モンスターの牙から猟鳥ハーピーを守るように使うんです。」
そりゃあ、小さいわけだ。ハーピーのサイズなんて人間の幼女くらいだし。何なら胴体は幼女よりも小さいかも。手とか足の比率が大きいから。
私は納得して声のしたほうを見た。そこには20代後半くらいのロングヘアな女性が立っている。なかなか美人だ。まあ、ココの店長なんだけど。名前は「日野 信哉」さんという。体型はスレンダーだが、顔は割とイケメンよりである。キリっとしている。
声が低くて太い。一応、女性だが、体が男性なのがその理由らしい。
メッチャいい人、メッチャいい人なんだけど、単純に見た目とのギャップがすごくて、いまだに慣れない。
本人いわく、自分は女性だけど体はいじりたくないとのことで、声帯などはいじっていないらしい。ちなみに見た目は完全に女子。漫画とかに出てくるムキムキなオカマとかではない。どちらかっていうと、最近流行りの「男の娘」が近いかもしれない。娘って年でもないかもだけど。
「ソレの売りは耐火性にも優れている事なんです。素材は何だと思います?」
いや、急に聞かれても。空音が聞き返すと納得の答えが返ってきた。
「それ、サラマンダーの皮を使っているんです。」
サラマンダーっていうのは、火蜥蜴とも書き、まあ、よーするに燃えているトカゲである。もっと正確に言うと、火の中でも生活できるほど耐火性に優れた皮を持っているトカゲらしい。この皮はちょっと高いんだけど、薄くて加工もしやすいから色々なモノに使われている。身近なところでいうと、うーんと、あれだ。小学校の避難訓練で使う防災頭巾。あれなんかには絶対使われている。ちょっと表面がザラザラしていたでしょ?あれがサラマンダーの皮。らしいよ。
「空音さんは前にハーピーを連れていたでしょう。おひとつどうです?失礼ですが、こないだ公園でお見掛けしまして。」
日野店長は困ったように頭を搔きながら、「お散歩に苦労なされていたようだったので、あえて声はかけなかったのですが」と続けた。
あー、それは空音の飼っているハーピーではなく、サッチーです。たまたまコイツが預かっていた時に見かけただけだと思います。ヒマリいわく、空音はサッチーに姉妹か何かだと思われているので、散歩に苦戦するんです。
とは言わないでおこう。ただ、ここで買ってもしょうがない。おそらくヒマリはサッチー用の防牙ベストくらいすでに持っている。それにこういうのを本人の許可もなく、勝手に…
私が真剣にどう伝えようか悩んでいると、空音が簡単に事情を説明して断っていた。空音はこういう時、スッパリと断れるタイプだ。その結果、人間関係がどうなっても気にならないタイプ。よーは、私の真逆なのだ。人間関係に関しては、だけど。
店長は本気で売る気もなかったのか、アッサリと引き下がった。
で、そのまま、カウンターに帰ろうとする。マズイ!カウンターに入られたら、本題を切り出せなくなる。私は、一度、奥に引っ込んだ相手を再び呼び出せるほど肝が座ってはいないのだ。空音に頼めば行けるだろうが、そこまでするのは申し訳ない上になんか気まずい。でも、いきなり本題に入るのもどうなんだ?何の脈絡もなさ過ぎて、向こうも困らないだろうか?
「あ、あの今何をされていたんですか?」
私は刑事か?取り調べしてるんじゃないんだから。マジでなんで私、アリバイ探るような聞き方してんだ?!
ほら、空音だったあきれているよ。目が冷たい。そんなにあきれなくてもいいじゃん!
まあ、変な気を遣って余計に店長を困らせたのは認めるよ。認めるけどさぁ。
という風に私が考えていると、店長が振り返って微笑んでくれた。
「ああ、裏で銃のメンテナスをしていたんですよ。」
店長はガンスミスだ。日本語にすると銃職人。よーするに銃のメンテとか改造をするプロのこと。とゆーか、プロ以外が勝手に銃の改造なんてしたらフツーに捕まる。まあ、そもそも命を預ける相棒に素人が下手に手を出して、モンスターの目の前で銃が動かなくなったら死ぬ。いや、これはガチで、そう。
「そうだ。アキさん。今日もいつもの子見ていきますか?」
オー!さすが、店長。お客のことをよく見ていらっしゃる。まさか、向こうから本題に入ってくれるとは。こうゆうところが店長が頭の固いおじさん猟師たちにそこまで嫌われない理由なんだろう。私が内心で狂喜乱舞していると、空音と目が合った。こっちをにみて、ニヤニヤしてる。
オー!さすが、空音さん。こっちのことをよく知っていらっしゃる。さては私がどこで本題の入ろうか迷っていたことに気づいていたなぁ?この、意地悪め。
まあ、今の私はサイコーに機嫌がイイから不問にしてやろう。
まあ、そんなことは置いておいて、今はあの子に会いたい。そのためにほぼ毎日、この店に来ているようなものなんだから。
店長はカウンターに引っ込んだ。何かをいじっているのかゴソゴソと音がする。しばらくすると、店長がカウンターから現れた。その腕に抱えた、大きなガンケースとともに。それをカウンターに丁寧に置く。店長に促され、私はゆっくりとそれを開けた。
中に見えるのは黒光りするシャープなフォルムを持つ散弾銃「MSH―12」。初めてこの店を訪れた時、私が一目ぼれした子。
この子が放った銃弾であの静寂を奏でたい。この子と一緒に音を追い越して、「しずか」な世界に旅立ちたい。
初めてそう思えた銃。それがこの「MSH―12」。通称ミヤムラなのだ。
まあ、この子と一緒に狩りに行くにはまだまだ掛かるが。なにせ、私は悲劇の受験生。受験が終わるまでは、狩猟免許を取らないというのが親との約束なのだ。一応、店長が気を利かせてくれて、受験が終わるまでは取り置きしてくれると言ってくれた。ただ、どんなに店長が神対応をしてくれてもこの子に会えないのは寂しい。とゆーわけで、たまにこうして会いに来ている。
30分ほど、ミヤムラを見つめていただろうか?私は店長の「そろそろ時間では?」という声で現実に戻ってきた。
いかん、いかん、早く帰って受験勉強をしないと。受験が長引くほど、この子に会えるのが遅くなるのだ。私は店長に挨拶し、ミヤムラに別れを告げた。私は日野さんが用意してくれたパイプ椅子に座って携帯を眺めていた空音を急かして、足早に店を出た。空音の抗議の声が聞こえるが、ここはスルーだ。早く帰って一刻も早くミヤムラの再会したい。
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