第7話 Girls have New world
とゆーわけで、2人(+1匹)は水辺を見下ろせる低めの丘に来ていた。
森を通ってきたせいで、も~クタクタ。フツーに疲れた。とゆーか、息1つ乱れていないヒマリは何なんだ?ホントに私と同じJKか。
と思いながら、ヒマリの背中を眺めてる。すると突然、ヒマリが私の目の前で急にかがみこんだ。そのまま、草むらの中を見つめ始める。かと思ったら、突然、こっちを振り向いた。
ヒマリの指さす草むらの中を覗き込んでみると。
なんだこれ?
白っぽい粒が見える茶色の物体。麩菓子みたいだけど。なんだこれ?
「なんだと思う」とヒマリ。ただ、残念だったな。私はすでにこれが何か知っているのだ。
ふっふっふ。サッチーが私と一緒に草むらをのぞき込むのを止めなかったのは失敗だったな。
サッチーの反応で私はその答えに辿り着いくことができたよ。
「分かっているよ。ヒマリ。これはなんかのう○こだ。そうなんでしょう。」
「ピンポーン!正解。なんでわかったの?アッキー、見たことないっしょ。」
ふっふっふ。この天才JK冬空アキ様の推理力をなめてもらっちゃぁ困るよ。
ハッハッハ
すみません。調子に乗りました。
分かったのは、サッチーの反応がわかりやすかったからです。
覗き込んだ瞬間に顔しかめて、逃げだしたら誰だってわかる。「くさー」って顔だったもん。あれは。
「これがケルシーの糞。これがあるってことはケルシーがいるって証なんよ。」
そう言うと、ヒマリは持ってきた黒いソフトバックを開けた。
「ココから撃つの?」
「うん、この時間なら寝てる山から出て、あの水辺のあたりに来るハズ。」
「で、来たところを上からズドン?」
「そんな感じ、そんな感じ~」
「よく、映画とかだとスナイパーが上から主人公狙ってるけど、リアルでもそうなんだ」
「まあ、上からのほうが狙いやスイカバーだから。あと、こーゆー山だと、スメルは下から上に行くんだと。だから、下に行くと、ケルシーに気づかれちゃうんよ。夕方だと、上から下なんだけどね。」
匂いが上昇する空気に乗って上に行く。それで下から狙うと匂いで獲物に気づかれる。だから、上から狙う。確かに理には適っている。
でも、そんなの良く知っているな。ゴブリンの肝を匂い消しに使うと聞いた時も思ったが、ヒマリはこーゆー知識だけはメチャクチャ持っている。ギャルではあるが、オタク気質が強い。
いや、ギャルだからかもしれない。
ようは、好きなことには全力なタイプなのだ。
反対に興味ないことはからっきし。どーも、勉強には興味がいかなかったみたい。
それは私もだけど。
ヒマリはライフルの本体をソフトケースの上に置く。そして、腰に付けた拳銃用ホルスターからライフルのボルトを取り出す。「ボルト」は細長い円柱みたいな金属に、人生を体感するボードゲームのヒト型の駒みたいな取っ手「ボルトハンドル」が付いたモノだ。縁日の射的の時につかんで引く部分とほぼ同じである。
ヒマリはこのパーツ「ボルトハンドル」を銃の上のほうにあるパーツにはめ込む。ボルトハンドルは先端が地面の斜め下に向かうように倒しておく。銃が組みあがり、ヒマリがゆっくりと草むらに伏せる。私も立っていると下から見えてしまうので、一緒に伏せる。サッチーも真似した。ちょっと困りながら伏せるのがカワイイ。キミは伏せなくてもいいんだよ。サッチー。
ヒマリは伏せたまま、右手に置いておいたバックパックから何かを取り出してソフトケースの上に。ボルトハンドルをさっきとは反対に起こして、ボルトを自分側にひっぱる。ヒマリはこの流れを迷いなくテキパキと済ませた。そのまま、ノールックでさっきソフトケースの上に置いた何かを掴む。ライフル弾だ。弾の名前は聞きとれなかった。数字も言ってたが、mmってついてたのしか覚えていない。
とにかく、そのライフル弾。正確にはそれを5つ、クリップという板っぽい道具にまとめたものだけど。これをボルトを引いたことで開いた銃の上にある穴に入れて、銃弾を押し込み、クリップだけを抜く。こうすると弾を一個ずつ入れるより、早く楽に入れられるらしい。
ハンドルを向こう側に押し、ボルトを倒す。あとは獲物が来るまで、ただ、待つだけだ。
これが長いんだけど。
もう、一時間半くらい経っている。腕時計を持ってきてなかったら5時間くらい経ったと思って帰りそうなくらい。ホントに暇だ。獲物に聞かれると逃げちゃうから、ヒマリにも話しかけられない。とゆーか、声も出せない。
ちなみにサッチーは早々に寝た。
5分も経っていなかった。裏切り者め。
いや、別に私も寝たっていいんだよ。私が撃つわけじゃないし。でも、せっかく、来たんだったら狩りの瞬間、観たいじゃん?勿体無いじゃん!とゆーか、寒くて寝られん?!
顔が痛い。寒い通り越して痛いって本当にあるんだな。初めて知った。
それからさらに15分経った。もうすぐ、2時間。ここらで切り上げるか。そう思って起き上がろうとすると、丘の下から何か音がする。私はヒマリから預かった双眼鏡を構えた。
ケルシーだ。水に足をつけたまま、立っている。
ヒマリがここまでの道で言っていた情報によるとケルシーは馬には似ているが、肉食。らしい。で、ワニみたいに獲物を水中に引きずり込んで食べる。
だから、朝と夜は水辺近くの森に潜んで、昼になると水を飲みに来た小動物を狙って水辺に来る。ってヒマリがさっき言ってた。
ただ、ケルシーはワニとか、カバみたいに泳ぎは得意じゃない。だから、浅いトコにいて、狩りの時以外は今みたく顔を出していることも多いらしい。そこを狙うのだそうだ。
ヒマリがライフルを構えなおす。
ボルトハンドルを引くと、弾が弾倉からもちあがってくる。
ボルトハンドルを押して、その弾を薬室という場所に押し出す。
ここから弾が火薬の力で押し出され、銃身を通って銃口から飛び出すわけである。
薬室に弾をセットし、ハンドルを倒せば射撃準備完了。
あとは引き金を引けば、いつでも発砲できる。
ケルシーが先ほどよりも深いところにいる。ちょっと潜った。ヒマリは微動だにしない。ケルシーはたぶん射線も消えている。でも、ヒマリは動かない。チャンスを待っているのだ。
少しして水が揺れた。ちょっと遠いがケルシーが顔を出した。時々顔を水につけながら、ゆっくりとこちらに向かってくる。踵が少し水に浸かるくらいの浅瀬まで来た。私だとちょっと距離がわからない。ヒマリはこのくらいの距離、感でわかるらしいけど。
でも、そこそこ距離があるのは確かだ。ほんとにこの距離から撃って仕留められるんだろうか?
突然、ケルシーがこっちを向いた。周囲を警戒し始めている。気づかれたのか?
突然、横を向いた。逃げようとしている。
突然、衝撃。
弾けるケルシーの全身が激しく横に叩かれる。弾丸に殴られて、首の皮が弾ける。飛び出る鮮血。赤い筋が水辺に散る。水は太陽の光に照らせれて、キラキラしている。そこに注がれる真っ赤な絵の具。音がない。静寂の世界に目に痛いほどの赤。
遅れて、銃声。耳が痛い。というより、揺れる。真横で巨大な杭が大地に打ちこまれた感覚。内臓に重みを感じる。耳に違和感。ぼやっとする。まるで世界が銃弾の打撃を受けて歪み、ぼやけてしまったみたいだ。
視界の端に飛んできた薬莢を見て、現実に戻った。時が止まった。なんだ、あれ。ヒマリのあたりから衝撃が来て、音が来るまでの永遠に感じる僅かな時間。夕方の自室に音がないのとはわけが違う完璧な静寂。音の出るモノがない退屈とは違う、音が追いついていない世界。理屈としては、簡単だ。弾丸は音より、1秒くらい早い。だから、目に映る景色が弾丸の一撃で変化した後に、音が耳に届く。
でも、そんな理屈はどうでもいい。とにかく、あの音がまた、聴きたい。
何でもいい。また、聴きたい。あの音。そう、音がないんじゃない
静寂の音だ。
映像と音の狭間の1秒に満たない一瞬。
一瞬だけれども永遠に近い神の時間。
そこに響くのは静寂の音。
「静寂」という音。
何もないんじゃだめだ。音が耳にと届くまでに生じるあの「音」。あれが聴きたい。本当に。あれが聴きたい。
薬莢から出ていた熱が収まったころ、何とか私は声を出すことが出来た。思いついてはいたのだが、声が出なかった。思考が声という「音」を追い越してしまった。
「アッキー、なに、ニヤついてんの?」
振り向いたヒマリは本当に不思議そうだった。やっべ、ニヤついてたかなw
やってしまった。
普段、一方的にしゃべり倒しているヒマリが声を出せなくなるほどのマシンガントークを繰り出してしまった。自分でもそんなにまくしたてなくて良かったと思う。
どんだけ音のない世界に興奮したんだよ。私。
私がしゃべり続けている間、ヒマリは水辺に近づいて倒れたケルシーの血を抜いて、内臓を取り出した。で、そのまま、手足を適当に切ってきた大きめの枝に括り付けて運ぶ。ついでに手の空いてる人が内蔵を持つ。私もしゃべりながら、銃声で起きたサッチーと交代で手伝った。ちなみに五味さんが運転する車はヒマリの連絡を受けて、現在こちらに向かっているとのこと。車が入れる位置までケルシーを移動して解体の続きをやる。ケルシーの皮は硬いので、車で一部を掴んで引っ張って剥がさないといけないのだ。あと、肉は車に乗せて運ぶから、車の近くで解体した方が何かと便利らしい。まあ、五味さんもいるしね。手は多いほうがイイ。
とゆーわけで、車に到着するとヒマリがさっそくケルシーの皮を剝ぎ、解体を始めた。何の迷いもなくナイフを操り、肉を切り出していく。さっきは気づかなかったが、モンスターの死骸というのはやっぱし気分が悪い。ちょっと吐きそう。ヒマリは一通り解体を終えると、車のトランクに内蔵と一緒に肉が入った肉袋と皮を突っ込んでいく。私もちょっと手伝う。肉袋からはみ出た血がヌメッとして気持ち悪い。何とか耐えろ、私。
さっきの「静寂」を思い出せ。
ふー、やっと終わった。これで手が洗える。私は素手に血がつかないようにビニール手袋を裏返しにしながら丸めるように慎重に剝がした。こうすると血の付いた手袋の表面が裏に回って、捨てる時には元々、裏だったキレイな部分を触れるのだ。
わたしはさらにダメ押しとして、ぺットボトルの水を素手にぶっかける。
私がすっきりしているといい匂いがしてきた。なんだ、この匂い。おいしそうだけど、嗅いだことのない匂い。うまそう。
「アッキー、これ、何の肉かわかる?」
ヒマリが笑みを浮かべながら、聞いてきた。答えは決まっている。
「ケルシー肉っしょ」
その答えに満足したのか、ヒマリが喜んだような照れたような笑み浮かべた。
「焼いといたんよー」
「焼いたのは五味さんでしょ」
「確かに」
五味さんは真剣に肉を焼いている。たぶん、こっちの会話は聞こえていない。
聞こえていたら、どう反応していいのか分からなくなって困るだろう。だから、五味さんには心の中でお礼を言う。でも、ヒマリには直接、いや、言わなくてもイイか。
私はそう思い、肉に齧り付いた。
あっふ。アッツぁ。あっつ。
うっま!
ごめん、東京の親戚。これが新鮮な自然の味だぜ。
ちょっとした罪悪感を覚える。でも、気にしない。そんなものはすぐに消えた。
肉の旨さの前では親戚への罪悪感など敵ではない。
ヒマリ、うまいぞ。ケルシー、ありがとう。
さっきはちょっとキモがってゴメン。
改めて、感謝だよ。ケルシー。
私は感謝の感情を胸に欲望のままで、肉に齧り付く。
やっぱりウマい。
ありがとう。
私達は肉がなくなってしまうまで、一瞬にして永遠とも言える幸せに齧り付いていた。
帰りの車の中は静かだった。サッチーとヒマリは疲れていたのか早々に寝てしまった。五味さんも特にしゃべらない。
でも、行きに感じた焦りや気まずさはない。
私の耳にはあの「静寂」がBGMだし、口の中にはあの肉の甘味が広がっているからだ。
また来たいな。私は遠のいていく山々を眺めた。そのまま、ゆっくりと瞼が落ちていく。それがとても心地よかった。
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