自称『普通』の高校生は、平穏が欲しいため怪異をぶっ飛ばします

@Zankyo-Isaki

第1話

キーンコーンカーンコーン

『ありがとうございました!!!』


今日最後のチャイムが鳴り、同級生たちの話し声や教室を出る野郎どもの足音でその場は喧騒に包まれる。部活へと向かう人もいれば、かくいう俺はすることもなく、荷物をもって帰ることに。

誰にも声を掛けられないまま、俺は下駄箱に着き。そして靴を履き替えた後、校庭へと向かった。


………こんな日が、続けばいいというのに………

それでも、『怪異』と呼ばれる存在が突如現れてからは俺のそんな願いさえもかなわぬものとなってしまった。ハンターと呼ばれる対抗手段が確立されている分、当時よりかは幾分かマシにはなったものの、怪異による地獄のような日々はいまだに続いている。


………っと、自己紹介を忘れていたな。俺は『星宮ほしのみやヒビキ』、どこにでもいるような高校生だ。平穏を望む俺は、今日も今日とて周りに関わらないようにしている。

なんでかって?そりゃあ、平穏が続けば神経を余計に使うこともないし。その分心も安らぐだろ?平穏イズベスト!!!






………とまあ、俺は望んでいるのだが。神はおいそれとその平穏願いを叶えるはずもなく………


ドゴォーーーーーーンッ!!!


俺が校門をくぐった瞬間、大きな衝撃音とともに”何か”が校庭の中央に落ちる。振り向くとそこには校舎と大差ないくらいの高さの怪異がたたずんでいて、生徒たちは我先にと逃げ惑っている。

そしてその瞬間、俺のポケットの中の携帯が鳴る。画面を見ると、そこには、『怪異出現』の文字が………


「はぁ、またか………」


正直言えば、俺は限界が近かった。

この数週間は怪異の出現がやけに多く、授業が止められるわ外には出られないわまともに会話もできないわ………そんな日々がいつまでも続いていることに、俺は怒りが込みあがった。そして………




「………ほんっと、ここ数週間は毎日毎日暴れやがってよぉ………!」


逃げ惑う生徒たちを掻き分けながら校門を再び潜り、体育倉庫の裏へと向かう。そこには、桐の箱が立てかけられている。開けると、中には黒い外套と一振りの刀が仕舞われてあった。それを手にし、俺は外套に身を包むと怪異の方を睨んだ。


「俺の平穏のために………とっとと消えてもらおうか………!」


俺の声は、その場で怪異の雄叫びに搔き消されたのであった。


ーーーーーーーーーー


その時、私は怪異に睨みつけられていた。

いつも通りの下校のはずが、空から怪異が降って来たのだ。周りは逃げ回る中、私は足が竦んでその場から動けなくなっていた。


「香織ちゃん!?こっち!!!」

「危ないから!逃げて!?」


友達が必死に私の名前を呼ぶ。それでも、恐怖がどうしても勝ってしまう。それを感じ取ったのか、怪異は私の方を見て目を輝かせた。


『グルルッ………』


数秒の沈黙の後、怪異は私をめがけて腕を飛ばした。よけられるはずがない。

………そっか………私、ここで死ぬんだ………

私はそう覚悟して、そっと目を閉じた。




………

………………




「………?」


いくら待っても、来るはずの痛みが全く来ない。訳が分からなくなった私は、そっと目を開ける。そこには………











「ったく………間に合って、良かったな………」


黒い外套を身に纏って。日本刀を構えた人が、立っていた。


『グルルルルァァァァァーーーーーーーーーッ!!!!!』


怪異はいつの間にか腕を斬り落とされていたのか、悲痛な叫びをあげていた。そしてヘイトは全て外套の人に向けられる。触手を背中から生やすと、怪異は彼をめがけて襲い掛かる。でも………


「はいはい、我儘な赤ちゃんは早くおねんねしな!!!」


彼はその猛攻をものともせず、間をすり抜けると怪異の鳩尾に潜り込み。そして、彼は………


「せいよっとぉ!!!」


まるでナイフをバターに通すかのような滑らかさで、その怪物を斬り刻んでいた。

斬り伏せられていた怪異は断末魔をあげながら塵となって行き、外套の彼は武器から血をふき取りつつ伸びをしていた。そして、目の前で起こった出来事に私はもちろん、他の子たちも開いた口が塞がらなかった。

携帯からのアラートでは、『SS級』と報じられていた。それは上から3番目、実質的には上から2番目の危険度であり、本来なら10人のハンターたちが束になってようやく相手できるレベルの強さ。そんな相手を、こうもあっさりと斃してしまったのだ。こうもなるだろう。

………その時、1人の子が口を開く。


「そ、その刀………『童子切安綱』………!?」


彼女の言葉に、周りもザワつき始める。

『童子切安綱』。『天下五剣』が一つであり、酒吞童子を斬った伝説のある名刀だ。本来なら博物館に置いてあるであろうその刀だが、どうじに『ある人物』の愛刀であることでも有名だ。


………え?ということは………




「も、もしかして………

あなたが、『クロワデュノール』………!?」


クロワデュノール。

『世界最強』の称号を欲しいままにする、伝説のハンター。その素顔を見た人は誰一人としておらず、彼も本名を名乗ったことがない。謎に包まれ、それであって誰もが知っている。そんな男が、目の前にいたのだ。


「え、うそでしょ!?」「クロワデュノール!?本物だ!?」「マジかよ!?写真撮んなきゃ!?」「うぉ~!?超有名人だ!?」


彼を一目見たほかの同級生たちは、物珍しさに群がった。そんな中、彼がこちらを向いた瞬間、私は見えた。


「ッ………!?」


そう、『クロワデュノール』の正体を、私は見えてしまった。

彼は、歴戦の猛者でも死神のような人でもなかった………











私たちと同じ、だった………

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