藪の中R

結城藍人

3分で分かる『藪の中』

 本作は文豪・芥川あくたがわ龍之介りゅうのすけ(1892~1927年)作の短編『藪の中』のパロディなので、前提条件として『藪の中』を知っていてほしいのですが、既にパブリックドメイン(著作権切れ)で青空文庫に収録されているとはいえ、読んできてくださいとは言えないので、蛇足ながら簡単な説明を入れておきます。知ってる人は飛ばして、本編に進んでください。一応、青空文庫の『藪の中』のURLも載せておきますね。

https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/179_15255.html


 ストーリーはというと、平安時代に起きた婦女暴行&殺人事件の真相について、当事者がそれぞれの立場で語る話です。


(1)前提条件

 まず、盗賊の多襄丸たじょうまるが、真砂まさごという若妻に婦女暴行を加えたことと、彼女の夫の金沢かなざわ武弘たけひろが刃物で胸を一突きされて死んだ、という事実には疑問の余地はありません。これが前提です。


(2)多襄丸の発言

 夫婦をだまして男を縛り上げて婦女暴行はしたが、最初は男を殺すつもりは無かった。女が「あなたか夫のどちらかが死んでくれ。生き残った方とつれ添う」と言うから、男の縄を解いて正々堂々と勝負して殺した。戦っている間に女は逃げた。どうせ死刑になるんだから嘘はつかない。


(3)真砂(原作では「清水寺に来れる女」と表記)の発言

 婦女暴行を受けたあとに夫を見たら「蔑んだ目」で見られたので、何か自分でもワケのわからないことを叫んで気絶してしまった。気づいたら盗賊はいなくて夫が縛られているだけだった。夫に「あなたを殺して私も死ぬ」と言ったら「殺せ」と言われたので小刀で刺し殺した。自殺しようとしたが死にきれず生き恥をさらしてる。


(4)金沢の武弘(原作では「巫女の口を借りたる死霊」と表記)の発言

 暴行後に妻にむけて「盗賊に何を言われても信じるな」と目で合図したが、盗賊が妻へ「一緒に来い」と口説いたのに対して、妻が「なら夫を殺してくれ」と言った。それで盗賊は妻を蹴り倒して「どうする、この女を殺すか?」と私に聞いたが、隙を見て妻は逃げ去った。盗賊も私の縄を解いてから逃げ去ったので、残された短刀を胸に刺して自殺した。


 最後の死霊の話が正しいようにも思えるのですが、三人の話が矛盾しながらも残された状況とは一致しているため、結局真実は分からない、という話です。また、(3)と(4)も本当に本人(真砂と武広)が語っているのかどうかもあいまいなままです。


 ということで、主観と自己弁護の含まれた発言からは結局真実は分からないということを描いた日本文学史上の傑作になります。


 以下、蛇足のさらに蛇足。読まないで本編に進んでもいいです。


 Web小説を読み始めた頃に、「視点がコロコロ変わるのは小説の作法としてNG」とか「登場人物のセリフだけで描写するのは小説としての出来が悪い」みたいな批判を読んだことがあって、ラノベを志向している以上セリフの方は気にしないで書いていたのですが、視点変更は多用せず、変更するにしても連載中の1話ごとに変えるようにしていたんですよ。


 ところが、改めて読み直してみたら『藪の中』って語り手(視点)がコロコロ変わってる上に、語り手の名前以外は全部その語り手のセリフなんですよ。


 おいおい、天下の大文豪・芥川龍之介が「視点変更」も「セリフで描写」もやってるよ!(笑)


 芥川賞って言ったら純文学の最も権威ある新人賞ですぜ。その大元が実はWeb小説ラノベと大差無い技法で作品書いてたんだから、世の中面白いモンだと改めて思った次第。なお、芥川賞の主催は「文藝春秋社」(言わずと知れた『週刊文春』の発行元)です(←意味深)。


 あと、芥川龍之介だって「桃太郎が裁判を受ける」なんて話も書いてるから、別に平安時代に週刊誌やSNSがあるような話を書いてもいいよね?(笑)


 それから、改めて以下のことを明記しておきます。


 この物語はフィクションである!(←『アオイホノオ』調)

 実在の人物、団体、等とは一切まったく絶っっっ対に関係ありません!!


 それでは、本編へどうぞ。

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