第24話

 滝瀬は平川の手によって拘束された。それに驚いている者もいたし、怯えている者もいた。しかし、拘束は完璧で、滝瀬はもう何も出来ないだろうと思われた。実際に無力化されていた。


「全部、終わったんですね」


 喫煙スペースに、刀利と加羅が並んでいた。平川はいない。滝瀬の傍にいる。

 銀の灰皿に、加羅は煙草を押し付けた。


「……そうだな。悲しい事件だった」


「だとしても、許されません」


「わかっている」


「人間は罪を償えるのでしょうか?人が人を裁くのは難しい。それはわかります。法の力でどうにもならない事があることも。その中で、どうやって生きていけばいいでしょうか?被害者は、耐えるしかないのでしょうか?私はたまに思います。自分の弁護をしてくれる人が、いないかと。解放してくれないかと」


「罪を償えるかどうかは、わからない。定義も曖昧だ。ただ、償おうとする覚悟は必要だ」


 二人共、表情は元気とは言えなかった。暗くなるのも必然か。


「事件は解決したのですけど、私、どうしても気になることがあるんですよね」


「なんだ?」


「ええと、人影ですよ。私達が食事を摂る時、確かに窓の外に、人影が見えたと思うんです。風で何かが吹き飛ばされたと考えるのが自然ですけど……見間違いかなぁ」


 刀利は首を傾げている。加羅は煙草に火をつけようとしている手を止めた。


「まあ、見間違いですね。みんな館の中にいましたし……あの悪天候の中、島に隠れているのは難しかったでしょうから。事件も、滝瀬さんの自白で終わりましたしね。消去法で、滝瀬さんが犯人なのは、加羅さんが証明しましたし。全てのパーツが、私の見間違いだった事を意味しています」


 加羅は黙ってそれを聞いていた。そして、煙草に火をつけ、離れたところにいる神楽秋野の方を見つめた。まだ、少女。


「加羅さん?」


「いや、なんでもない。終わったことだ……もう殺人は起こらない。ただ、窓の外の人影が勘違いだったように、たった一つの情報が、全てを解決することもあるのだと、思っただけだ」



 天候は良くなり、白良島に警察が到着した。白良島で起こった出来事の事情を平川を始め、加羅達も説明し、平川と滝瀬は、警察に連れて行かれることになった。

 平川が警察に連行される時、刀利はずっと平川の方を見ていた。申し訳ない、ごめんなさい、ごめんね、そんな気持ちで。お別れなのだと。

 滝瀬はすんなりと逮捕を受け入れ、罪を自白した。


 加羅と刀利達は、警察の護衛の元、白良島から脱出することが出来た。船に揺られ、本陸へと帰ることになったのだ。その中には、神楽秋野の姿もあった。悲痛そうな表情を浮かべていた彼女。

 リッキーも警察に紛れ、秋野達を迎えに来ていた。彼は事件の事を聞いて、心底驚いたような表情をしたのであった。そして、島にいられなくて申し訳ない、という事を言っていた。


 揺れる船の中で、日差しを浴びながら、加羅と刀利はぼんやりとしていた。事件は終わったのだと。

 その時、ふと加羅は船内にいる秋野の方を見た。

 秋野はパソコンを操作していた。驚くべきは、圧倒的に文字をタイプするスピードが速かったことである。

 彼女はどうやら、プログラミングをしているらしい。

 高速でタイピングを続ける秋野。

 その時だけ、秋野の表情が悪魔のように見えて、加羅は背筋がゾッとした。

 リッキーも船に乗っている。彼は秋野に飲み物を運んでいた。

 その笑顔は曇りなく、秋野はリッキーから笑顔で飲み物を受け取った。


 揺れる海の音と、乾燥したように響くパソコンの音。

 これで、この事件は集結する。終わったのだ。


 人を殺すことが正義なのかと問われると、わからない。

 しかし、少なくとも残酷な事であることは間違いない。

 白良島からの脱出は、ここに終わった。

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千乃時加羅&傘吹雪刀利シリーズ-推理可能- 夜乃 凛 @tina_redeyes

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