奈落の底に落とされて3000年。世界が世紀末化していたので好き勝手やってたらいつの間にか魔王認定されていたんだが?

にがりの少なかった豆腐

第1話 奈落の底からこんにちは

  

 奈落に落ちれば必ず死ぬ。しかし、奈落の底は生命が死ぬことのできない。


 誰がこんなことを言ったのか。確認もできないことをさも正解のように言うのはどうかと思う。


 そう言ったのはいつのことだったか。


 真っ暗闇の中でそんなことを思い出す。この思考になったのも何度目か、全く思い出せない。


 ことの始まりは、一緒に冒険していた仲間をモンスターの攻撃から庇い瀕死の状態になってしまったこと。

 それまで一緒に冒険し苦楽を共にしてきた仲間たち。大怪我を負ってもちゃんと治療をしてくれる、そう思っていた矢先、突然意識が朦朧としている中、俺がきていた装備を剥ぎ取ると近くにあった奈落の大穴と呼ばれる場所に放り捨てられた。

 最初は装備を外してから治療してくれるのかと思えば、全く真逆のことをされたのだ。


 奈落の大穴の中を落ちる間、どうしてこんなことをされたのか分からず、仲間たちのことを振り返ろうとするもそれは叶わず、すぐに意識を失った。


 そして気づけば真っ暗な空間に漂っていた。空に浮いているような水の中にいるような不思議な感覚。確認しようにも周囲は漆黒の闇。それを確認することはできず。


 それからどれだけ時間が過ぎたか。

 意識が戻ってからのしばらくは、俺をこの穴に投げ入れた仲間たちを呪ってやろうと思っていたが、そんな気もちはとうに薄れた。

 今はただただ昔のことを思うだけになっている。


 ここ、奈落の大穴の底。おそらく底なのだろう場所では寝る事ができない。食べ物も飲み物もないが飲み食いせずとも死ぬことはないし、腹が減ることもない。

 どんな空間だ。そんなことを言われてもそうだからとしか言えない。不思議な空間なのだ。相当深くまで落ちたはずなのに落ちた時の痛みもなかった。それ上、落とされる前に負った傷の痛みもない。

 怪我が治ったのか、その確認も体全体の感覚がないので分からない。そもそも俺は生きているのか?


 こうやって考える事ができているから死んでいるとは言えないと思う。しかし、それ以外のことは何一つできない。声を出すことも呼吸することもできない。

 でも死なない。


 どうなっているのか。そう思っても答えは返ってこない。


 そんなことを繰り返し繰り返し考えては忘れ、思い出す。途方もない時間が経過したようなそんなでもないような。無に近い感覚の中過ごしていた。


 そんな中ふと、視界に変化を感じ目を覚ます。


 今までとは違う、真っ暗ではない空間。しかし、何も存在しな……いや、これ目を開けてないだけだな。


 長いこと漆黒の世界にいたせいで目を開けるということを忘れかけていた。

 ゆっくりと、目を開けてみると刺すような光が瞳の奥に差し込んできた。


 うおっ、まぶしっ!!?


 自分で目を開けといてなんだが、目の中に入ってきた光が強すぎて驚きの声を上げるところだった。いや、上げようとしてあげられなかったが正解か。

 こっちも長いこと口を開いていなかったからどうやって声を出すのかを忘れてしまった。ああ、こっちは思い出すのに時間がかかりそうだ。


 周囲を見渡す。

 見渡す限り荒野である。生命らしい生命の反応は一切見られない。草木もほとんど見当たらない。

 俺の記憶にある世界は緑に覆われた世界だから、全く知らない場所に来たのだろう。そもそもどうしていきなりあそこから出てこれたのかも分からん。


 視線を地面に向けるが、草はほとんど生えていない。生えている植物も何かみすぼらしい見た目で、あまり土壌の栄養状況がよくないのが分かる。


 ん?


 視界の縁に黒い大穴が映った。

 おかしいな。この大穴、俺の記憶の中でもおんなじサイズの物があるんだが。

 え、ウソだろ。もしかして、この場所って俺が知っているあの森とか言わないよな。

 いやしかし、この穴は俺が落ちた奈落の大穴だし、似たような場所というには特徴が似すぎている。


 マジか。俺が知ってる緑の大地どこ行ったんだよ……

 

 とりあえず、ここにいてもやることないし別のところに行ってみるか。そうすれば緑のある場所にも行けるだろ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る