03-10:あたしたちの戦いはこれからだ!

「ああああーっ!?」


 ランチタイム終わって。

 あたしは己の失策に気づき、思わず声を上げてしまう──。


「ど、どうしたんですっ? 灯さんっ?」

「蔭山さん、写真っ!」

「えっ……?」

「みんなで食べてるところ、写真撮り忘れたあああっ! あたしの美しい青春の一ページがあああっ!」


 蔭山さんとの野外ランチに浮かれてたのと、利賀先生の話に気を引かれてたので、女子のごくごく一般的な習性忘れちゃってた!


「うあああ……。せめて一切れ食べた時点で気づければ……。覆水盆に返らず……うううぅ……」

「覆水盆に返らず。英語では『It’s no use crying over spilt milk』。こぼしてしまったミルクを嘆くな、だ」

「ティーチャー・利賀。ネイティブな発音されたところ恐縮ですが、いまその情報いらないです……」


 部長さんが写真撮りまくってたから、無意識に「写真はもういい」ってメンタルになってたのかも……。

 完全に油断した……。


「えっとぉ、それじゃあ~。灯さ~ん、まだ体力あります~?」

「えっ……? あ、はい。全然疲れてないです」


 郷土史のお勉強で気疲れはあるけれど、肉体はエネルギー十分。


「ではぁ、利賀先生~。ここから下山の予定を変更してぇ、奥の院まで登っちゃいませんか~?」

「……仁科。灯を利用して、登山欲を解消しにきたな……」

「えへへへ~。灯さんはぁ、どうです~?」


 どうですか、と聞かれても……。

 そもそも、えーと……。


「すみません。おくのいん……ってなんですか?」

「神社の本殿のさらに奥にあるぅ、お社やお堂ですね~。奥宮おくみやとも奥社おくしゃとも言います~。ここから80メートルほどぉ、登ったところです~。展望はぁ、さらにいいですよ~」


 要するに、さらに登らないか……ってことか。

 でも、あたしが撮りたいのは景色じゃなくって、お食事中のみんな。


「実はですね~。初参加の灯さんがぁ、ごはん足りないって言ったときのためにぃ、こっそりおやつを用意していたんです~。ロッテのチョコパイをぉ、一人一個ずつ~。頂上でぇ、食べませんか~」

「行きます」


 即決即断即答。

 食べ物あるなら別。

 絶景を後ろに、チョコパイ手にした女子たちの自撮り。

 いいじゃない、いいじゃない!


「それではぁ、奥の院へいざ出発ですよ~。予備のドリンクもありますからぁ、水分摂りたくなったら言ってくださいね~」


 部長さん、気が利くぅ!

 もしかすると、ちょうどここの展望台へ正午につくよう時間配分してて、目的地変更も視野に、飲食物準備……してた?

 侮れない……おっとり部長、仁科梢──。


「あー、おまえたち。頂上へ向かう前に一つ注意」


 なんだろう、利賀先生。

 この和気あいあいに水差さないでほしいけど。


「『奥の院』という言葉には下ネタの意味もあるから、人前では口にするなよ? 官能小説でしばしば使われる表現で──」

「先生、いまその情報いらないです」

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