第2話 トレッキング部へようこそ!

02-01:美樹下善とかいうイケメン

 ──キーンコーンカーンコーン♪


 ……昼休みを告げる鐘。

 あの夢のようなミスドの一時ひとときから、ほぼ丸一日。

 きょうの放課後から、あたしはトレッキング部の一員っ!

 蔭山さんと同じ部活っ!

 充実した高校生ライフ、いよいよ開幕っ!

 心の余裕も生まれて、授業中の蔭山さんへのチラ見回数、昨日比半減っ!

 いまから放課後が待ち遠しいっ!

 ……あ、いやいや。

 きのうの会話的に、きょうからお昼一緒にしていい流れっ!

 だったら購買へダッシュして、速攻でお昼ゲットしなきゃっ!


 ──ドッ!


「……おい灯。おまえいつも購買だよな?」

「はあ……?」


 席を立とうとした瞬間。

 前の席のいすを180度回して着席し、不愛想なツラでこちらの机へと向き合う男子。

 したぜんとかいう、あたしの後ろの席のイケメン。

 なぜ従来の配置に逆らって前に来る?

 身長180センチ台後半。

 がっしりとした体形ながら、細顔と長い手足によるスマートな印象。

 染めた金髪へこれみよがしに赤黒いメッシュを施したその頭、チャイロスズメバチへのリスペクトか?

 尖った顎、切れ長ながらも黒目が大きめな瞳、長い睫毛。

 男子と女子のいいとこ取りの美形。

 全学年の女子が注目中……そんな噂も聞いてる。

 けれどあたしは美樹下に、蔭山さんの前髪一本ほども興味なし。

 授業中何度も何度も蔭山さんをチラ見してきたけれど、背後のあんたを意識したこと一度も一秒もないから。


「……間違って多めに買っちまった。よかったら食うの手伝ってくれ」

「……はぁん?」


 ──ドサドサドサッ!


 逆さになったファミマのレジ袋から落ちてくる、大量の調理パンとおにぎり。

 それがあたしの机を半分ほど埋める。

 どう考えても一人はおろか二人でも食べきれない量。

 というか、これは……。


「……あのさぁ、美樹下」

「なんだ?」

「ナンパ下手か?」

「……は?」

「どう見ても間違って買った量じゃないでしょ……。セルフレジでバーコード読み取ってるとき、『あ、多いなこれ』って我に返る量でしょ……」

「ん……まあな」


 不愛想なまま、軽く握った拳を口元に当てて悩む美樹下。

 容姿や人気に反して、女子を食事に誘うの下手すぎる。

 あたしのKAWAIIカワイイを理解したその審美眼はまあ、褒めてあげてもいいけど──。

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