第1章 『魔王としての一生』
第1話 魔王アビスレグナ
「魔王アビスレグナ様がいらっしゃいました。」
「ワァーーー」
湧き上がる歓喜の声。気がつくとそこは玉座だった。
いや、は?何事?突然の出来事に唖然とする。
さっきまで変な空間にいたよな...?あそこから抜けられたのか?ここは城とかか?服も違うし…てか、魔王って言ったよな、どゆこと?
「魔王様、ご機嫌麗しゅうございますか?」
「え、あぁ、うん。」
何か聞かれたので適当に答えた。一応言葉は分かるようだ。しかし、答えると同時に相手を見たとき、俺は絶句した。見た目は人間だが、鋭い牙、長い尾、2本の角。明らかに人間ではない。魔物だ。
どういうことだろうか?いや、聞くまでもない。俺は異世界に転生してしまったのだ。それも、この世界の魔王として。え、これってやばくね?ラノベみたいじゃねぇか。こいつは面白そうだぜ。
「魔王様、どうかなさいましたか?いつもと雰囲気が違うような気がしまして....。」
「え?」
魔物が聞いてきた。いつもの雰囲気っつってもなぁ。魔王って言うくらいだから威厳があるみたいな?
一人称どんな感じなんだろ?「我」とかかな。まぁ魔王っぽく振舞えばだいじょぶっしょ!
「いや、大丈夫だ、問題ない。我は魔王アビスレグナなのだからな。」
「杞憂でした。無礼をお許しください。」
「うむ。許す。」
よし。これなら大丈夫そうだ。
しかしアビスレグナか。洒落た名前だな。
そういや魔王はここで何をしようとしてるんだ?
「して、用件はなんだ?」
「近頃勢力を増している勇者ガルフォード率いる勇者軍の対処に関して会合を開くことになっていると存じておりましたが、何やら取り違いがございましたか?」
「ふむ、そうであったな。貴様を試しただけのことよ。気にするな。」
「さ、左様でございましたか。度々の無礼をお許しください。」
「うむ。」
まぁ嘘だけど。しかし、なるほど、勇者か。たぶん敵になるんだろうな。俺の異世界勝ち組ライフを邪魔するものは排除していったほうがいいのかもしれない。
「それではそろそろ始めさせていただきます。」
司会のような役割なのだろう。魔物の一体がスイッチを押すと、会合用の椅子と机が現れ、幕が下ろされた。
「それでは魔王様、会議の進行をお願いいたします。」
「へ?あ、うむ。」
お前が進めんじゃないのかい!思わず変な声出しちまった。仕方ねぇ、魔王っぽくいくしかない。
「改めて、今回の議題は勇者軍の対処に関してだ。何か意見があるものはいるか?」
「魔王様。私に1つ案がございます。」
1体の魔物が手を挙げた。
「ほう。言ってみろ。」
「はい。それではこちらをご覧ください。」
そう言って魔物は何やら唱え始めた。え、何?呪文?俺も使えちゃったりするのかな?ワクワクしながら眺めていると、どこかの景色が映り始めた。これはあれだ。投影魔法とかいうやつだろう。
「ここは勇者軍の本拠地、アールスフォードでございます。ここは三方を山、一方が海に面しており、守りが非常に堅いと言えます。しかし、地下から攻めればどうでしょうか。勇者軍は空からの奇襲か、船での海上戦を予想していると考えられます。地下からの攻撃など全くもって想定していないでしょう。さらに、勇者の武器である聖剣エンディミオンですが、これは夜に真価を発揮します。よって、昼の開戦が得策だと思われます。以上が私の提案でございます。」
「ふむ。有意義な意見だ。参考にさせてもらおう。」
「ありがたき幸せ。」
すごい意見だな。よく考えて作られたプランだ。てか三方が山で一方が海って鎌倉かよ。守りに関しては最高の立地だもんな。そしてそれを覆すこいつの作戦も最高だ。地下からの攻撃は、元人間として確かに想像できない。何しろ現実的に不可能なのだから。
「さて、他に意見のあるものは?」
誰も手を挙げようとはしない。当然だ。これ以上の作戦があるとは思えない。
「それでは、以上をもって勇者軍への対処を決定する。異論のあるものはいるか?」
「ございません。全ては魔王様の仰せのままに。」
「承知した。作戦の決行は5日後とする。貴様、この会議を締めよ。」
適当に時間を決めて、俺に進行をやらせてきた魔物に仕事を与えてやった。決して面倒だからやらせているだとか、あてつけだとか、そういうわけではない。ないったらない。
「承知いたしました。これにて会合を終了いたします。」
案外嫌がらずに進めやがった。何かムカつくが仕方ない。
こうして、魔王の会合は終了した。
この会議での一番の収穫は魔法が使えるということだ。めっちゃ使ってみたい。魔法こそ異世界ものの定番だろ?!
どうやって使うんだ...?よくあるのは詠唱とか、魔法を想像するとかだけど…。
まぁ詠唱とかよくわからんし、想像していきますかね。
まずは…炎の魔法とかやってみたい。燃え盛る炎を想像か…この際マッチの炎とかでもいいだろ。
指をマッチを持つ場所だとして、その上の火薬が燃えるんだとすれば、指に意識を集中させればいい。
指の先で燃え盛る炎を想像してみよう…。
「ボッ」
指に意識を全集中させた瞬間、指先で赤い炎が燃えたぎった。それはまるで波のようにゆらゆらと動いていた。
「す、すげぇ」
感動のあまり、思わず声が出てしまった。魔法が使えたのだ。無理もない。
これを前に飛ばすようなイメージで…。
放つ練習もしてみた。炎の魔法よりもかなり簡単だった。複雑な魔法ほど難しくなるんだろう。逆に言えば強い魔法だろうと想像できれば可能性は無限大に広がるということだ。
やっべぇ、すげぇ楽しくなってきた…!
こうして俺は魔法を会得した。
その成功を噛み締めながら、俺はいつの間にか眠りについてしまっていた。
このときの俺は魔法という名の玩具を手に入れてすっかり浮かれていた。勇者などどうにでもなるだろうとそこまで気にしていなかった。
所詮は人間。魔物になど敵うはずもない。そんな過信だけが1人歩きしていたのだった。
これは魔王城に勇者軍が攻めてくる3日前のことであった…。
〈魔王アビスレグナ 完〉
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