「蛇印」

低迷アクション

第1話

収集地点にある目印を元に場所を記憶する…これは、ゴミ収集、廃品回収業、全ての職種に共通する事だ。


例えば、ゴミステーション近くの家で派手な下着が干されていれば、この場所は

“パンツのステーション”と命名されるだろう。


目印、あだ名はインパクトのあるモノ程、覚えやすい。


古紙回収業の“Fさん”の職場でも、個性的かつ印象に残る目印が多くあった。


県営住宅は“けんじゅう”クレームをつける高齢者が出没する所は“ガミガミ”など、どれも、実際に行ってみると納得するモノばかりだった。


しかし、職場の先輩に言わせれば、これらは、序の口だと言う。


「今度のコース替えで、担当になっから、言っとくけど、スゲェとこあんから…

先教えといてやるよ。そこな“蛇人間”いるから」


行けばわかると言われた当日…


古い作りの住宅が並ぶ通りに、その場所はあった。


ステーション横の家は、藪が群生している。車を停めると、藪の中から、人間の両手が突き出された。


剥き出しの腕が2本、それ以外の部分は藪のせいで、見えない?


瞬時に可笑しいと感じる。


「腕の長さからすれば、肩口まである。だから、頭も一緒に出ていないと変です。それが見えてない。よっぽど腕が長いか…いえ、とにかく」


呆然と見入るFさんの前で、腕は、手を“コ”の形に曲げ、2匹の蛇が鎌首をもたげるように、クネクネと動かす。


「蛇のダンス?あ、だから…」


「おいっ」


口について出た言葉は、同僚の先輩の声で遮られた。


「あんま見んな。仕事するぞ」


Fさん達が作業を終え、車に乗り込むまで、腕は動き続けていた。


「何なんです?あれ?」


「知らねぇよ。他のにもやってるかどうかは知らんが、通るといつもあれだ。でも、どうにもできねぇ、仕事に害なきゃいい。やらせとけ」


「そうですね…」


納得したFさんは、コース変更の日まで、腕を気にせず、業務を続ける。


半年後、職場内で同僚の1人が変死した。彼はFさんのコースの後任…

通夜の席で、一緒に乗っていた人から話を聞いた。


「ハイ、蛇人間、あの気味悪い腕…〇〇さんも嫌ってました。だから、この前、

手に向かって言ったんです。“馬鹿野郎”って…そしたら、アレ、いつもと違う動き、クネクネじゃなくて、拍手…それも掌を合わせるんじゃなくて、手の甲を打ち合わせる逆の奴、まるで、蛇が頭打ち合って、威嚇したみたいに…


〇〇さんは…いや、気にしちゃ駄目だ。話しちゃいけない。だから、この話はこれで…」


目印は今もある…(終)

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「蛇印」 低迷アクション @0516001a

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