プリクラ新時代

夏木

第1話


「ねえねえ、プリ撮ろうよ〜」



 一緒にゲームセンターに行ったら、彼女はプリクラを指さして言う。

 何台も並ぶ大型機械。

 俺にとっては、そこは女子の聖域で男が立ち入ることが出来ないような場所。今も女子たちがわらわらと集まっている。


 何が違うか全くわからないけど、まずはどの機体を使うのかを選んで、鏡で身だしなみを整えて、それでもって写真を撮る。そのあとには賑やかに落書きをする。

 流れ的には知っている。けれど実際にやったことはない。



「いいでしょー? いこいこ。あ、あっちの方が新しいやつなんだよね。超最新。あれで撮りたかったんだよね」



 彼女は俺の腕をぐいぐい引っ張って行く。

 選んだ機種は最新らしい。前に並んでいる人の数が他と比べて多い。

 順番を待っている間に、何が違うのか聞いてみた。



「違い? あるに決まってんじゃん。こっちはね、マジ盛れる。目がぶわって。それに顔もちっちゃ! ってぐらにできるんだよね。それにまつ毛もばっさばさ。で、あれは肌がめっちゃ綺麗にできるし、鬼細くなれる。あ、これは逆にナチュ盛りだけど合成がパない。映え。他も落書きがいいやつもあるし、世界観があるのとかー……」



 聞いたら止まらなくなって困った。

 女子はそういうのが好きなのか。なんて思っているうちに、俺たちの番が来た。

 彼女にせがまれるまま、お金も出してやることを見ていたら、まずは入る前に操作をしている。

 というか、これって五百円するんだ。二人、三人で撮るときってどうやって払っているんだか。

 中に入ってみればバックに垂れ幕と大きい画面。そしてあまりにもまぶしい光。そうか、光で綺麗に撮るんだな。


 大きい音で音楽と案内アナウンスがされる。彼女は慣れた手つきで何やら画面をタッチして進めていく。



「ん、これ? どんな感じにするか決めてるの。あと、音とか。やっぱアガる方がいいじゃん? ん、できた。いくよー」



 彼女が画面から離れたら、さっきよりもテンポの速い音楽が鳴り響く。

 そしてこんなポーズを撮るのはどうか、こういうふうにするといいよ、というように画面にモデルが表示されてあれこれ指示してくる。



「ほら、こうやって! 時間ないんだから」



 シャッターを切るまでの時間が早い。

 機械と彼女に言われるがままに撮られていく。

 何枚撮ったのか分からない。撮り終わったら移動するようにってアナウンスされたからそっちに移動する。



「好きなの書いてよ」



 画面が半分に分かれていて、二人が同時に落書きできるようだ。

 彼女がペンをとってすらすらやっているけれど、何を書いたらいいかさっぱり分からない。

 画面の表示もよく分からない。なにこれ、なんでこんなにいろいろ表示されてるの。こんなに必要なわけ?

 彼女の画面を見てみたら、ものすごい勢いで落書き……いや、加工している。

 画面の中の彼女がどんどん編集されている。

 パット見では眼が大きくされている。鼻も嘘みたいに小さくされてるし、唇も色が派手についている。濃い化粧をしたみたいだ。そこまで顔をいじった上に、サイズまで変えたようで顔全体がぐっと小さくされている。

 じっと見てみたら眼の下にミミズみたいな……涙袋っていうんだっけ? それが作られていた。

 肌も白っぽくなりまるで漫画みたいな顔の比率だ。足なんて棒みたいに細く長く、すぐに骨が折れそう。

 今の短時間でそこまでいじったのかと、感心してしまう。



「もう、いいよ。全部やっておくから。外に出て待ってて」



 呆れられてしまった。確かに棒立ちの俺じゃ邪魔だった。

 ここでいや、やるよと言えるわけもなく。俺は謝って落書きブースから出た。

 出たら今度は女子たちの集まりの中に投げ出されるわけで。そこに男ひとり立っていられなくて、プリクラコーナーの枠から出て待つことにした。


 けれど、待てど暮らせど彼女が出てくることがなかった。

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