第5話 「待たせたなっ」

百合さんを初めとする有志によって企画されました自然教室


園児から小中学生、高校生の姿も見えますよ。もちろん大人の参加しております。

総勢30人を超える参加者で賑やかでございます。


ここは世界樹広場の奥 外からは見えない場所にあるビオトープ

百合さん達からは「トンボ池」と呼ばれる場所でございます。

トンボの幼虫など水生昆虫が住める場所を確保しようと整備致しました。めだかなど絶滅危惧種も住んでいますよ。


いつもは見ることの出来ない場所に入ることが出来ると聞いて集まった方が多いようです。


「よ~し お前ら よく集まったな」


スキンヘッドにサングラス 太く大きな声が響きます。

初めての園児さんや小学生はちょっとビクビクしています。見た目が「世紀末」を生きるパンクなお兄さんに見えますからね。

でもね・・・


「「「アニキっ」」」


「待たせたなっ」


アニキさんをよく知っている男子くんの呼び声に応えてサングラスをバッと外すと可愛いのですよ。ぱっちりお目々のお兄さまでございます。しかも本日は気合いを入れてつけまつげまでしております。

もうネタになさっているのでございます。苦笑いしながら隣立っているのは可愛い奥さま。

実はお花屋さんを経営しているご夫婦でございます。そうです。世界樹広場に植物を提供して頂いているお花屋さんです。アニキさんは普段会社員をされておりますが、自然教室のインストラクタをボランティアでされているのですよ。

さすが子供たちの心を掴む技を持っていらっしゃいます。みんな笑顔ですよ。


§


あまり目にも留めない小さな生き物を面白おかしく解説して頂けます。

トンボの幼虫を初めて見る子供経ちも多いですね。意外と大人の方も初めて見るようです。ミズカマキリやゲンゴロウ

同じ街に住んでいるお仲間ですよ。仲良くしてくださいね。


「世界樹が小さな命を守っているのですね」


百合さんが世界樹を前に祈りの姿勢 あなたはすべてに対して謙虚ですね。


その姿に共感したのか一緒にお祈りする子供たち

そして胸に手を当てて世界樹を見上げる大人たち

自然と向き合う時間は大切でございます。



「みんな これを見てくれるかな」


世紀末アニキさんの手には枯れてしまった花が一鉢


「花が咲くと思うかい」


口にはしませんが目を伏せる子、首を横に振る子、難しそうな顔をする大人の方

辛うじて緑色が残っている状態なのです。みなさんの反応は当然でございます。


「みどりちゃん どう思う」


「あのね まだお花をさかせたいって大きなこえがきこえるの あたたかいおみずをちょうだいって しめりけのあるところにおいてほしいって」


アニキさんに聞かれたみどりさん 迷いもせずに熱く語り始めました。枯れかけたお花が叫ぶ声が聞こえるようです。


「なあ みんな おれは悔しいんだよ。プロの花屋がここまで枯れさせたんだぜ。みんな綺麗に咲かせてやりたいのに出来なかったんだ。それなのにみどりちゃんは大丈夫なんて言うんだ。俺には分からない何かが聞こえるんだ」


突然熱く語り始めたアニキさんに驚くみなさん でも真剣に聞いてくれています。


「みんなが遊んでる世界樹広場に沢山花が咲いてるだろ あれってな これと同じ枯れかけた花をみどりちゃんが育てたんだ。わかるか プロが出来なかったことをやってるすごいヤツなんだぜ こういうヤツをグリーンハンドって言うんだ。花屋の憧れだぞ」


少し涙声になりながら枯れた花をみんなに差し出すアニキさん


―――― みどりちゃんすごい

―――― そんなことをしていたんだ

―――― 全然知らなかった あの花は全部・・・


肯定的な空気が流れています。優しい空気です。大丈夫そうですね。


「グリーンハンド 最高だぜっ」


「「「おうっ」」」





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