詩「夜の懐」
Nowaki Arihara(有原野分)
夜の懐
くすぐるようなシャワーの音で目を覚ますと
足元に保護したばかりの猫が寝転がっていた
薄目のままその景色を眺めてみる
猫は寝返りを打ってぼくを見た 目が合った
シャワーを終えた妻が布団に入ってくる間
ぼくと猫の間には同じ掛け布団に包まれているような
同じ世界を生きているという
具体的なぬくもりのある空気が流れていた
妻が着替えを済ませて電気を消していく
リビングの窓辺に月明かりが薄く灯る
氷のようなガラスの向こう側に夜があった
星がきらめいているかは分からない
ぼくはもう眠たくて仕方なかった
猫は眠れているのだろうか
妻はスマホを眺めてゴロゴロしている
その隣にいる娘が口をチュパチュパ鳴らしている
夢かもしれない
ぼくはきっと夢を生きている
失いかけた現実の片手に 右手に
棄てられた人生の残り香がかすかにする
死んだ人の夢 この世にいない人の夢
明日は娘の好きな唐揚げでも作ろうか
ぼくは猫の頭を撫でようか悩んでから
夜の懐に深く潜り込んでいった
詩「夜の懐」 Nowaki Arihara(有原野分) @yujiarihara
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