悪役モブに転生した異世界人にざまぁされそうなので、ラスボスのプライドなんて捨てて暗殺しようとしたけど無理そうです。

ななよ廻る

魔王を継いだら、ざまぁされそうです

「お前はラスボスの魔王だ。ついでに、悪役モブに転生した異世界人にざまぁされるから」


 父親の遺言がそんな荒唐無稽な戯言だった時、息子としてなんと応えるべきだったんだろう。


「妄想も大概にしてくてください」


 あまりにも突拍子もない発言だったので、まったく面白みのない返事になってしまった。


 そのまま父はポックリ逝った。

 まさか、親子の最後の会話が息子との会話に苦心する父親のジョークで終わるとは思わなかった。


 享年千年。長く魔界を治めた王の言葉がこれとは、国民には聞かせられるわけもない。

 もっと威厳のある言葉にしなくては。

 こうして為政者の最後の言葉は、耳障りのいい哲学的な名台詞として語り継がれていくのかもしれない。


 そんなわけで、王である父親が亡くなったことで王位は1人息子である俺にスライド移譲。最初の仕事が、父親の最後の言葉をでっち上げることになりそうだったのだが、俺付きのメイドの発言によってその仕事はお流れになった。


「……なんて?」


 おどろおどろしい骨でできた玉座に座って、銀髪メイドのリリアに聞き返す。

 魔王の間で折り目正しく立つリリアは「はい」と頷いて、もう1度同じ台詞を繰り返して口にした。


「魔王様が口にした、坊ちゃまがラスボスで、悪役モブに転生した異世界人にざまぁされる、というのは事実でございます」

「坊ちゃまじゃない魔王様と呼べ」

「魔王様(笑)」

「そうだそれで……なんか語尾に付いてなかった?」

「なにも付いておりません(笑)」


 人形のように無表情なのに、嘲笑されている気がするのはなぜなのか。


「まぁいい」


 本題はそこではない。

 玉座の手すりに肘を突いて――骨が刺さる! 座りにくいなこの椅子!


「俺がラスボスで? 悪役モブに転生した異世界人? だかなんだかに殺されるって? 棺桶に突っ込まれる前の親父が口にした盲言を信じろと?」

「でなければ、魔王様(笑)はざまぁされます」

「ざまぁってなに?」

「死にます」


 手で首を切る動作をされる。

 どことなく小馬鹿にしているように見える態度はともかく、真剣な顔で語られるとどうにも真実味が増す。


 あるのか? そんなこと。

 イマイチ信じられないが、一応父親の最後の遺言だ。そして、それを事実だと語る部下もいる。

 死に際の盲言、と切り捨てるには気にかかる。


「それが真実だとして、どうやって俺は殺されるんだ? これでも俺は強いぞ? なにせ今の俺のクラスは【魔王】だからな」


 この世界はクラス至上主義だ。

 生まれた瞬間にクラスは決まっており、特殊な例外を除いて変化することはない。そして、強さもクラスに依存する。


 そして、数多あるクラスの中で俺の【魔王】は最強だ。

 継承するクラスという特殊な例外だが、まず間違いなく世界屈指の力を誇る。

 それが悪役だがモブだかよくわからん奴に殺される?


「不可能だろう」

「でも死にます」


 ただ事実を告げるように無表情に言う。


「どうやって?」

「さぁ?」

「さぁって」


 わかんねーのかよ。

 やっぱり親父の盲言だろ、それ。


「そんな荒唐無稽な話を信じろと言われてもな」

「では、ご覧になりますか?」

「なにを?」

「証拠を」


 にっこりと、リリアが今日初めての笑顔を見せる。


「――転生者に会いに行きましょう」


  ◆◆◆


 リリアの言葉を半信半疑どころか、俺は疑っていた。

 当然だ。

 最強たるクラスである【魔王】を持つ俺が、たかだか人間に負けるとは思わなかったからだ。


 けれど、その認識が間違いだったのを、すぐに知ることになった。


 リリアに連れられてきた人間の村。いわゆる寒村と呼ばれるような田舎の村で、俺は目の前で起きる現実を受け止められないでいた。


「……なぁリリア」

「なんでございましょうか」

「人間が桑で大地を割ってるように見えるのだが、気のせいか?」

「現実でございます」


 淡々としたリリアの言葉で、ようやく眼前の事態を薄っすら受け入れる。


「うぉおおおおっ!」


 豪快に叫びながら、畑を耕すように桑を地面に叩きつける人間の男。

 10代半ばの少年に見える男は、貴族が着るような質のいい服を身に纏いながら、どうしてか畑仕事をしていた。


 ……しているように見えるが、俺には地面を割っているように映る。

 え? なんで桑で大地を割れるの? おかしくない? だって桑だよ? 畑耕す道具だよね?


「……リリア、あいつのクラスはなんだ?」


 デュアルクラスという世界でも稀に見る存在だ。だからこそ、魔王の息子であった俺のメイドに任命されたわけだが、今はどうでもいい。

 今回はそのクラスの1つである【鑑定士】が有効になる。他人のクラスを見ることのできる能力だ。


 ゆえに、彼女の目には今も大地をがんがん割っている化け物のクラスが見えている。

 そのリリアが言った。


「【農民】ですね」

「……農民?」


 え? 世界中にいる人間の半分以上のクラスだとされている農民?


「戦闘技能なかったよな?」

「ありませんね」

「じゃああいつはなに?」


 と、指を差して意味不明な男を指差したら、どこからともなくドラゴンが飛んできた。

 は? なんでドラゴン?

 魔物の中でも上位に存在する怪物。

 襲われたなら殺されるしかない怪物だが、希少種でもある。現存するドラゴンを見ることがまず稀であり、こんな人間の村でお目にかかることなんてない。


「うぉっ、ドラゴンっ!?」


 さすがに桑で大地を割る頭のおかしい男もこれに驚いたようだった。

 そうした常識はちゃんとあるんだなと、変なところで感心していると、農民らしい男は近くに転がっていた拳大の石を拾った。


「これでも――くらえっ!」


 大きく口を開けて威嚇しているドラゴンに向けて一投。

 これには俺もつい笑ってしまう。

 田畑を襲う獣じゃないんだ。ドラゴンにそんなものが効くはず――


「は?」


 ――と、内心嘲笑していたら、ドラゴンの頭が吹っ飛んだ。すぐに嵐のような突風が周囲を襲う。


「今日の晩飯はドラゴンだな!」


 なんて喜ぶドラゴンスレイヤーにおいおいと突っ込みたい。

 石を投げて?

 ドラゴンを殺す?

 は? どうやって?


 頭の理解が追い付かない。

 巨体を誇るドラゴンを平然と担ぎ上げて去っていく怪物の中の怪物を呆然と眺めていると、リリアが言った。


「というわけで、魔王様(笑)はざまぁされます」


 ……あんなんチートだろうぉぉぉおぉぉおおおおおっ!?

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