4話 『宝石獣』
「さぁさぁ!ゆっくりしていってね!」
「はーい!」
何がどうしてこうなった……っ!
頭を抱える俺を赤髪イケメンが心底鬱陶しそうにすること15分前
───────────
「なんで俺の家!?」
「……?俺たち家ねぇし」
「知らねぇよ!!!」
俺の家に行くことになんの疑問があるんだと言わんばかりの態度に遂に俺は爆発する
いやいやいやいや
百歩譲って俺の家に行くのはいい
だけどな!!!なんかとんでもねぇ事に巻き込まれただけで俺はただの被害者!
なんで逃げなきゃ行けねぇんだよ!!!
「お兄ちゃん、家に連れてってくれないの……?」
「うぐっ……!」
ちょこっと俺の裾を掴んで不安そうにこちらを見上げてくる
や、やめてくれ……!それは俺の良心に効く……!
別にこの子だけなら俺は家に連れて行ってもいい
でも問題はこの子の兄だ!
初対面だが俺は既にあのイケメンが嫌いである
当然だろう
口を開けばそれはもう見事な罵詈雑言
好きになる方が難しい
俺がどうしたものかと悶々と悩んでいると聞き馴染みのある声が俺の耳に入った
「あら〜?アキちゃんじゃない。もう帰ってたのね」
「母さん!?」
「商店街の方で騒ぎがあってじゃない?アキちゃんいつも商店街の方を通って帰ってたから心配で……」
「……って!ボロボロじゃない!アキちゃん!大丈夫なの!?」
「だ、大丈夫だって!」
買い物袋を持ったまま母さんは俺に駆け寄ってきてペタペタと怪我がないか確認してきた
怪我がないとわかると安心したように方の力を抜き、安心したように笑う
その姿に心配を必要以上にかけていたことを自覚して申し訳なくなる
「あら?そっちの子たちは……」
「あっ!その……」
「もしかしてアキちゃんのお友達!?」
「どうも」
「あらあらあら!本当にアキちゃんのお友達なのね!どうかしら。折角のお友達なんだから家によって行かない?」
「母さん!?」
「んじゃ、お言葉に甘えて」
────────────────
てな感じであれよこれよと母さんに連れられこの2人を家に招くことになったのだった
「何だこの部屋汚ぇな」
「わぁ!色んなお人形さんがいっぱい!」
「……お前、もしかしてオタクってやつか」
「ほっといてくんない!?」
容赦のない赤髪イケメンの物言いに俺は少しダメージを受けた
別にいいだろオタクでも……!
赤髪イケメンは図々しくも部屋主の俺を差し置いて堂々とベットに腰掛け、黒髪美幼女はと言うと物珍しそうに俺の部屋を見て回っていたがやがて疲れ果てたのか兄である赤髪イケメンの膝の上で寝こけている
俺はと言うとベットに座り見下ろしてくる赤髪イケメンの前で正座していた
おかしいよな?あっちが客人だよな?
「それで、あなたのたちは一体……。てか名前何」
「ああ?まず他人に名前を聞く前にテメェが名乗れよ」
「お前マジ性格終わってんな!!!」
軽蔑するように見下してくる赤髪イケメンに俺は本気で苛立ちつつも、これじゃ埒が明かないと渋々固唾を飲んだ
「……俺の名前は金剛晟。あんたの名前は?」
「……紅玉焔-こうぎょく ほむら-」
「え、と……じゃあそっちの子は」
「こいつは紅玉翡翠-こうぎょく ひすい-。俺の妹だ」
「はぁ……。あの、なんて呼んだら……」
「あ?さん付けに決まってんだろタコ」
「焔な!OKそう呼ぶわ!!!」
決めた
こいつは死んでもさん付けはしねぇ!
なんでこんなにこいつ口が悪いんだよ!
「ちっ!」
「って!くだらねぇこと言ってる場合じゃねぇ!説明!何が起こってるのかの説明を求む!」
「あ"あ?説明?んでそんなことする必要があんだよ」
「あんなことに巻き込まれたんだ。俺だって当事者になる」
「それに知らないままなんて、気持ち悪くて仕方ねぇ」
焔は眉をひそめていたが俺がじっと見詰めると諦めたようにため息をついた
その後ガシガシと頭をかき顔を上げる
「……仕方ねぇ。何が知りてぇ」
「宝石獣って……なんだ」
「宝石獣?テメェも知ってるだろ」
「違う。俺の知りたいのはもっと詳しいものだ。翠玉さんたちの会話で分かったんだが俺たち一般人が知ってる知識とあんたらの知識には齟齬があった」
「その齟齬の部分を俺は知りたい」
「……宝石獣はお前らが知ってる通り獣の姿になることが出来る人間のことだ」
「政府からも一種の人種として認められてる」
「……"表向き"にはな」
「表向き……?」
焔は複雑そうな顔を目を一瞬逸らしたが唇をかみ締めたあと、またこちらに目を向けた
「あいつらは表向きには俺たち宝石獣を人と認めたと世間に認知させたが、その裏で宝石獣を軍事利用してる」
「軍事利用?」
「そうだ。宝石獣には基本的に2つの能力が元から備わってる。1つ目は体のサイズを自由に変えられる。最大サイズと最小サイズには個体差があるけどな」
「2つ目はサイコキネシス。まぁこれも操れる物の質量や重さに個体差はあるが」
「それを基本スペックとし、俺たちはそれぞれに特別な能力を持ってる」
「強い力を持ってる宝石獣を上の連中はどうしても手に入れたいと思ってたみてぇで、俺たちが宝石獣だとわかった途端、政府は俺らの両親を殺し俺たちを拘束しようと動いた」
「俺たちはギリギリ政府から逃れたものの、行く宛てもねぇから同じ宝石獣のヤツらに世話になりながらここまで来た」
俺が思っていたよりも宝石獣を取り巻く環境は過酷なものだった
あまりにも重い内情に俺はつい言葉が詰まるが、ふと話を聞いて焦りが唐突に湧いてくる
「待てよ……。政府が宝石獣を狙ってるってことは翠玉さんは大丈夫なのか!?」
「まぁ十中八九上に連れてかれるだろうな」
「そんな……!」
「あいつはそれを覚悟の上で俺たちを逃がした。上手くやるだろ」
「……」
「……それにヤツらは俺たちを利用したいんだ。殺しはしねぇだろうよ」
「なら、いいけど……」
俺はとりあえず焔の言葉を信じることにした
翠玉さんは大丈夫と自分に言い聞かせ、話の続きをする
「お前、同じ宝石獣に世話になってきたって言ってたけど宝石獣って互いにわかるもんなのか?」
「ああ。会ったら"こいつ宝石獣だな"って感じる」
「そんなもんなんだな……」
「で、他に気になることはねぇのか」
「あ、そうだ。翠玉さんが兄弟で宝石獣なんて珍しいとか言ってたけどあれってどういう意味なんだ?」
「どういうもクソもねぇよ。そのままの意味だ」
「宝石獣は元来血筋でなるもんじゃねぇ。人間の中で突然変異として生まれるのが宝石獣だ」
「だから親が宝石獣でも必ずしも子も宝石獣になるとは限らねぇし、兄弟揃って宝石獣なんでまず無ぇよ」
「そうなんだな。あ、あと翠玉さんが翡翠ちゃんに"普通よりも力が強い"って言ってたけどどういうことだ?」
思ったより素直になんでも答えてくれる焔に驚きながらも気になること、知りたいことを焔にどんどん投げかける
焔は面倒くさそうにしながらも続きを話してくれた
「宝石獣つっても細かく二種類に分けられんだよ」
「二種類って?」
「まず1つはビースト化しても人の意識が残ってるヤツ、2つはビースト化したら思考も獣になるヤツだ」
「俺は前者で翡翠は後者だ。基本的に後者のヤツは前者よりも強い力を持ってる」
「獣って……。それ翡翠ちゃん大丈夫なのか?」
「正しくは普段は理性で動くのに対して本能で動くようになるだけだ。記憶や知識は人間のままな」
「紛らわしいな!最初からそう言えよ!」
「あ"ぁ"!?テメェが勝手に勘違いしてるからだろうが!!!殺すぞ!!!」
「理不尽!!!」
胸倉を掴んでそう怒鳴ってくる焔に俺は理不尽とつい叫んでしまう
だってそうだろ!?絶対紛らわしい言い方をしたほむらが悪いだろこれ!!!
暫く取っ組み合いをしていた俺と焔だが翡翠が「うぅん……」と身を捩らせたため俺たちはそっと元の位置についた
「……焔。これが本題だ」
「……」
「翠玉さんはなんで、あんなに暴れてたんだ」
「……数ヶ月前、突然ある宝石獣に黒い何かが取り憑き、その宝石獣が暴れ始めた。そいつは普段から温厚なヤツで暴れるような人間じゃなかったはずだ」
「でもあいつは見境なく暴れ、何もかもを破壊した」
「その、何かってなんだか分かるのか」
「……影だ」
「影……?」
「俺たちはそいつを止めようとしてた時、次々と他の宝石獣たちも何かに呑まれ暴走を始めた」
「そして俺はそいつらの影が本体を飲み込んで暴れ回ってることにようやく気づいたが、気づいた頃にはもう遅かった」
「影が取り込んだヤツらは普段よりも力が何倍も強く、動きも俊敏になってた。だがその力の制御は出来ていないようだったがな……」
「うーん……。つまり、影に取り憑かれた宝石獣たちは強力なバフがかけられている状態で、でもその代わりに制御不能な闇堕ちバーサーカーになってるってことか!」
「闇堕ちバーサーカー……?ま、まぁそんなとこだ」
「周りは全員暴走を始め、俺に襲いかかろうとしてた。流石の俺ももうダメだと思って覚悟を決めたが……」
「その時、翡翠がその場にやってきてそいつらの暴走をまるっと収めちまった」
「はぁ!?翡翠ちゃんが!?どうやって!?」
「翡翠の能力は癒しだ。恐らくその癒しの力が原因だろうな。今のところ影に取り憑かれたヤツらを治せるのは翡翠しかいねぇ」
「お前も、ニュースとかで聞いてるだろ。"宝石獣の凶暴化"」
『続いてのニュースです』
『最近発生している宝石獣-クリトス-の凶暴化について政府からの表明について』
「……あ」
その時俺は朝のニュースがその話をしていたことを思い出した
俺たち一般人には関係ないとその時は思っていたが、まさかこんな形で関わることになるとは夢にも思わなかったけど……
「この暴走は全国各地、果ては海外でも起きてる。俺たちはその暴走した宝石獣を元に戻すために奔走してたわけだ」
「さいですか……」
「だが流石に宛もねぇ旅だから限界を感じてたんだよ」
「はぁ……」
「だからお前、俺たちをここに住ませろ」
「……はい?」
「だから、ここに俺たちを住ませろ」
「……はぁあああああ!?!?」
「ちょ、お前何言ってんの!?泊まるならまだしもこのに住む!?はぁ!?」
「声がデケェよ翡翠が起きるだろうが」
「もっと気にすることあるよね!?」
唐突にここに住む宣言をされた俺は近所迷惑とかそんなの気にする余裕もなくとにかく騒いだ
会って間も無いどころか出会って初日の人間に同じ家に住ませろとかいう神経がまず理解できない
なんで?俺の意思は?
そもそも!翡翠ちゃんだけならまだしもこの態度も背もデケェ野郎を住まわせるなんて絶対に嫌に決まってる!!!
「も〜。アキちゃんったら何を騒いでるの?」
「あ、母さん……!」
「おばさん。俺たち今日からここに住むから」
「あら〜?いいわよ〜!じゃあ早速お父さんに知らせなきゃね〜」
「母さん!?!?」
そのまま母さんは「じゃあお料理沢山作らなくちゃ〜」とルンルンで台所に戻っていき、俺は行き場の無い手を何処に下ろせばいいのかも分からずに固まる
まさかの展開に頭の処理が追いつかなかったとも言う
とりあえず……
「よっ、これから世話になるぜボロ雑巾」
「出ていけよお前!!!!」
「あ、ちなみに翡翠泣かせたら殺すからな」
「ずっと思ってたんだがお前もしかしなくてもシスコンだな!?」
金剛晟、この度同居人(不本意)が増えました
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