美しい彼が死ぬわけがなく私が死ぬ。
タナカァ
第1話 20万字程度の物語
ポチ置き場から木材をもってこい。
うす。
変わらぬ日常に変わらぬ景色。
親方からの怒鳴り声も日常だ。
夏も終わりに近づくが、残暑とはよく言ったものだ。アスファルトはまだ暑くその照り返しのような日差しが私に降り注ぐ。
朝がぽつりと落ちて地面に着く。小さなシミになったがいつの間にか姿を消していた。
仕事終わりの一杯のビール。ググっと注ぎ込みいつもながらの1日を終えたことに乾杯をする。まあ1人でやっているのだが。
ふと思う。今日は少し違ったところがあったかもしれない。コンビニで買う惣菜だ。気に入ったものはあるが、やはりいつか飽きてしまうのか、新メニューなどを買うようになってしまった。だから私は分かるのだが、これ過去にも出てることを。やっぱ値段上がってねーか?って思うことも。とはいえ、今日は少し変わりだねのしそ餃子というものだ。冷えたビールとの相性よく喉の奥に消えていく。
携帯を見て、いつもながらのくだらないニュースに目を通す。アラートがなっていたので、何もみずにぽちっとボタンを押す。残酷なものだ。しかし責任を自分には負うこともできない。
ああ、また明日が始まる。そんな言葉を頭に浮かべて暗闇の中で携帯をいじる。
夜の時間がもったいなく感じるのをリベンジ夜更かしというらしい。確かに一日中好きでもない仕事ばかりしている私にとってはこの時間は大切なものだったかもしれない。
とはいえ、明日も早い。寝なければいけない。分かっているけども、ね。
朝、少しの寒気に体を布団の中に入れる。冷房をつけすぎてしまったのかもしれない。眠さと闘いながら自分が持てる精一杯の勇気を出して布団から出ること、それが少しの勇気だった。
誰かがいつか言っていた、布団は起きた後にちゃんと直しなさい。しかし、それがどうしても出来ない。なぜ出来ないのか。1日やってみた。生活の質が上がった気がした。明日もやろう、そう思って朝起きたが、朝起きてみると不思議なことにできなかった。どうせ、明日の朝には崩れるし、寝る前に直すし…。意味がわからないとか心のどこかで言っていたのだろう。自分自身が一番分かるはずだ。
変わるきっかけはどこにでも落ちている。
変わらない理由はいくらでもある。
でも、この世界には一つだけ変わらない事実がそこにある。
当然に物語は路地裏から始まる。
ねえ、助けてよ。
そう思ってたこともあった。
それは間違え。
何か一瞬の出来事が世界を変える。
私は真昼間の会社の前でたまたまうずくまっている人に声をかけてしまったとこから始まった。
それは日常。
日常は残酷で、でも抗うことができない。
でもね、私は運がいいと思う。
あっちから世界を変えにきてくれたんだから。
自分から行動しないといけない世界でダラダラと生きてしまった私に、こ綺麗な彼が声をかける。
ブランド色のキラキラとした髪。私より少し若く見える潤いのみえる肌。ピンクの薄い唇。長いまつ毛に縁取られた大きな瞳。
見上げた顔は光に照らされてこの世の中でも美しい存在であることがわかった。
そんな存在と出会った時、あっとか、うっとか、現実では言葉が出ないことを知った。
彼が立つ。座っていたその美しい存在は、狼狽える私を見つめたまま立った。
意外にも私よりも身長が高いようだ。座っていた時は小柄に見えたのに今は私を見下ろして立っている。
僕達、選ばれたんだよ。
僕は、林原かえで、ねえ君は?
その言葉に私は目の前が真っ白になる。
照らし続ける太陽が熱くじわじわと頭のてっぺんを燃やす。私は膝から崩れるように道端に座る。立っていた彼の影が私の上に降り注ぐ。
とおくからこえがきこえる。
ミステリーは平均20万字らしい。私たちの物語はそれ以上に語ることがあると思う。だけど赤の他人から見たら1000文字ぐらいで終わる出来事なんだ。
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