第3話

 突然懐にお金が入り、少しだけ疲れが回復したような気持ちになる修也。

 あとは残りの体力も戻す為に食にありつこうと店を物色していた時。


「いました! 学園長様あいつです!」


「では、確保してください」


「はっ!」


「ん? なんだ? 事件でもあったのか? 」


 修也は視線を声のする方へと向ける。

 見るに、スーツ姿をしている二人の男女が颯爽と街を駆けている。

 

「ほぉ……かっこいい。流石はファンタジー世界。走る姿も様になるな。さて俺は飯でも――」  


「おい動くな! もし指の先でも動いたらこの首が吹っ飛ぶぞ」


「え? 」


 修也は途端に何か冷たい物が自分の首に触れていることがわかった。

 そっとあてがっている方へと顔向ける。


「おい動くなといったはずだ」


「す、すみません……ってそれは」


 修也が目にしたのは、銀色に輝く細長い刃物。

 いや、もはや刃物なんてかわいいもんじゃなかった。

 見るからに剣。明らかに斬れ味のありそうな剣だった


「学園長、どうやらまだ物には手をつけていないようです」


「そうですか。迅速な対応ありがとうございます」


 学園長と呼ばれた優しそうな雰囲気を持つ女性は修也が持っている巾着を見て安堵の表情を見せる。


「学園長。コイツにはどのような罰を」


「そうですね……」


「ちょっと待って、ヒィ……」


 弁解しようと顔を動かそうとした修也だったが、耳元で聞こえるシャキンという甲高い音で無意識に体が硬直する。

 そして、視界の端にはキラッと陽光を反射させる刀剣。


「な、何でこんな事に……」

  

 修也が恐怖で体を強張らせる中、先程から考え込むような素振りを見せていた学園長が何か思いついたのかように笑みを浮かべ――


「では、打ち首にしましょうか」


 女神のような美しい笑顔で死神のような言葉を発する学園長と呼ばれた女性。


 結局、修也は両手を縄で結わえられのまま連行されてしまった。

 もちろん首に剣を添えたままで。

   

 時間にして数分、修也はとある場所へも連行されていた。

 そこはさっきあの男とお金をかけた勝負をした学園だった。

 

「ここって……」


「おい。誰が口を開いていいと許可した? 」 


「すみません……」


 そうして地獄のような送迎を体験した修也が連れていかれたのは学園の中、学園長室だった。


「さて。ではまず、貴方のお名前でも聞きましょうか? 」


 そう言って学園長は目の前の机に仕舞われていた椅子を引き、ゆっくりと腰を下ろした。  


「楠木――アウス・オルファンです」


「ではアウスさん。貴方はこれから打ち首となりますが何か言い残すことはありますか? 」


「ちょ、待ってくださいません!?  」


 修也が興奮気味に前のめると、シャキンという音共に冷たい刃物が首もとへと触れる。


「そんな事仰られてもこれはれっきとした盗みです。しかもこれほどの大金。これは許される事ではありません」


「待ってください!! 俺は盗んでないんです!!  だって――」


「なら何故お前を使えたあの時、あのお金がその手に握られていた? まさか知らない間になんて戯言は言わないよな?」


 スーツ姿の女は鋭い眼光を修也に向け、目鼻立ちの整っている顔をギョッと近づけた。


「た、確かに持っていたのは事実だけど……でもこれには訳が――」


「なら打ち首だ」


 その瞬間、刀がより強く修也の首に押し込まれた。

 どうやらこのスーツの女、冗談ではなく本気修也を処刑しようとしているようだった。

 一切の怠慢がないその表情を見れば嫌にでも分かる。


「待て待て!! それ本当に首が飛ぶやつ!! 落ち着いて!! 」


「安心しろ。痛いのはほんの一瞬だ。その後には安楽だけが待っている」


「お、俺の話を聞けぇぇ!! 」

 

 これは無理矢理にでも話を聞いてもらわないとこのまたでは間違いなく首が飛んだしまう。

 濡れ衣を着せられたまま処刑なんて修也もごめんだ。


「では……学園長、今すぐに執行いたします」


「まぁ待ってください」


「しかし!! 」


「いいじゃないですか。弁解くらいさせてあげても。もしかしたら本当に訳があるのかもしれませんし」


 スーツの女は悔しそうに唇を噛みながらも一歩後ろへ下がる。

 修也は学園長のお言葉で弁解の余地を与えられたようだ。


「では聞きましょうか。貴方の言い分を」


「えっと……」


 それから修也はさっきあった事を全て学園長に話した。

 そのお金は勝負に勝って貰った正当なものだと。

 しかし、話を聞いても学園長からは納得したような雰囲気は感じられず。


「確かにこの学園は特別でそういった賭け事は校則でも認めています。ですが、貴方がうちの学園の生徒に勝てるとは到底思えなくて」


「そう言われても事実だし……そうだ。あの男!! 今からその男を探して聞いてくれれば!! 」


「学園長、もう、コイツのうつつごとを気にする必要はありません。学園長の言う通り、コイツがここの生徒に勝てるなんてありえません。即刻命令を」


「だーかーらー!! 本当だっていってんの!! もしこれを嘘というのならお前達の目は節穴だぞ!! 」


「な!? 貴様誰にそんな偉そうな口を……学園長こんな礼儀も知らないクズなど今すぐに処刑しましょう! ! 」


「そうですね~……」


 学園長はふと考え込む。

 して、何かを思いついたのか学園長の口が小さく開かれた。


「いいこと思いつきました」


「いいこと……ですか」


「はい。アウスさんには新年度からこの学園の生徒として通ってもらいましょう。そしてその力が本物であると証明できれば、貴方を無実だと認めます」


「……へ? 」


 そんな情けない声を漏らしたのは修也だけでなく、後ろからスタスタと学園長の元へ歩み寄るスーツ姿の女もだった。


「何を言ってるんですか学園長!! 」


「まぁまぁいいじゃないですか。アウスさんもまだ若い男の子なんですし。それにこちらもそれが嘘だと断定出来ていませんからね。流石の私も殺人犯にはなりたくありません」


「ですが!! 」


「そうなったら貴方も犯罪者になってしまいますねシキ」


「くっ……!! 」

 

 悔しそうに唇を噛むスーツの女だったが、学園長の発言が効いたのだろう。

 女は剣を鞘へと戻し学園長の後ろへと立った。

 つまり、修也は処刑から解放されたのだ。

 だが、修也は納得のいかないような表情。


「……いやだからその男に聞いてもらえれば解決なんですけど」

 

「学園長の言う事は絶対だ。お前に拒否権はない」


 先程とは違いしっかりと冷静さを取り戻したスーツ姿の女の淡々した発言に修也は手で顔を覆う。

 

「無茶苦茶だ……大体俺魔法使えないですよ多分」


「あら? そうなんですか? んーまぁそれでも構いません。元よりこの学園は特別ですからね」


「特別? 」


「はい。まぁそれはおいおい知ってもらうとして、私が今言えるのは魔法の使えない貴方でもこの学園でなら十分にやっていける可能性があるということです」

 

 このままでは本当にこの学園の生徒になってしまう。

 ただあの男を探して事実を聞いてくれればいいだけなのに。

 

「……あ、そうだ。俺お金持ってないですよ? だから学費も払えません」


「大丈夫です。貴方は学園長である私の推薦入学として扱うので学費は免除です」

 

「……そう。俺家もないんですよ。それこそ食料とかもなくて。果たしてそんな俺がこの学園でやっていけるでしょうか? いや到底やっていけませんよ」


「その件も安心して貰って構いません。この学園には寮があります。今日からそこに居住してください」


 そう言って学園長は立ちがあり、この学園の制服であろう着衣とルーム番号が書かれているカードキーを修也に手渡した。

 制服は黒を基準に所々に緑色のラインが入っていて、思いの外カッコいいと思わせる。

 そして制服の上にはここから寮までの道のりが書いてある紙が貼り付けられていた。


 して、修也はもう逃げれる道はないんだな、と一人悟る。


「はぁ……」


「それでは早速入学手続きを済ませますね」


 そう言って学園長はまたきらびやかな椅子に腰かけ目の前のパソコンを操作し始める。


「魔法の世界にもパソコンってあるんだな……」


「おい」


 なんて事を思っていると、威圧ある声とともに鋭い眼光を向けるスーツの女が修也の目の前までやってくる。


「学園長はお優しいから今回は猶予をお与えになったが私は貴様を放任しない。もし少しでも怪しい動きを目にしたらすぐにでも処刑だ。いつ何時もお前の事を監視してるからな」


「こ、こわい……」


 しかし、一つ一つ動作は妙に気品を感じる。

 きっと、それが妙に狂気さを感じない一端なのかもしれない。


 して、カチャカチャと流暢になっていたタイピング音が止み、学園長はそっと立ち上がる。


「手続きは完了しました。今日から貴方もここの学生の一員です。どうか頑張ってくださいね」


「が、頑張ります……」


 して修也はひょんなことからこの学園の生徒となってしまった。

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