グローバルインコ(他インコに纏わる短編集)
膿井倉
グローバルインコ
ある日、飼ってるインコがおもむろに
「ないすとぅーみーとぅー」
と言い出した。
なんでもすぐに覚えるし、お喋りなインコだなとは常々思っていたが、英語を教えた記憶はなかったので、
「英語なんてどこで覚えたの?」
と聞くと、
「夕方の教育番組」
と返ってきた。
なんでも、寂しくないように、と私が仕事でいない間付けていたテレビで覚えたという。
続けてインコは、
「もしかして、あの子、英語圏の子なのかもと思って」
と言ったので、私はぎくりとした。
少し前から、インコのケージに付けてやっていた鏡の玩具に、なにやら話しかけてるな、とは思っていたが、どうやらもう1羽、仲間がいると思い込んでるらしい。
私は「それは鏡というやつだよ」と教えてやろうとしたが、そういう前にインコが、
「日本語で話しかけても返ってこないから、きっと日本の子じゃないんだよ。でも僕が喋れるようになったら、きっともっと仲良くなれると思うんだ!」
と、とても嬉しそうに言うので、なんだか本当の事を言うのが気の毒に思えてしまって、思わず、
「だったらもっと練習しないとねぇ」
なんて返してしまった。
そこからしばらくして、インコの発音はどんどんネイティブになって、話せる単語も増えていった。
けれど、ある日インコが、
「I Love You」
と言っているのを聞いて、私は嫌な予感がした。
そっと覗いて見てみると、思った通り、鏡にゲロを吐いていた。それは所謂求愛行動の一つであった。
私は内心「ごめんね」と思いながら、インコが見ていない時に鏡を外した。
鏡が居ないことに気づいたインコは、すぐさま私に訴えた。
「あの子は何処に行ったんだ!」
私は答えた。
「きっと、ちょっとの間故郷に帰ってるんだよ」
そう言われてインコは目をつりあげて怒った。
「そんなのきっと嘘だ!君が嫉妬して、僕とあの子を引き離したんだ!」
私は大好きなインコに、そんな事を言われて悲しくなり、思わず「発情しすぎたら病気になっちゃうかもしれないから、調整していかなきゃいけないんだよ」と言いたくなった。
けれどもインコの楽しみを奪ってまで「長生きして欲しい」という私の気持ちを押し付けるのもエゴなのかもしれない、と思って、何も返す事が出来なかった。
私がしょんぼりしていると、インコは次第に怒る声を静めて、
「怒ってごめんね。君が僕にとって悪いことをするはずないのにね」
と呟いた。
私はそっと、インコの頭を搔いてやった。
インコは、
「確かに、外国から来てるなら、ホームシックにもなるよね」
と自分に言い聞かせるように言った。
そうして、しばらくカキカキを堪能すると、私の方を見てこう言った。
「次は中国語の勉強をしたいんだ。英語もかなり上手くなったはずなのに、通じてない気がして。何かいい番組はないかなぁ?」
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