第7話 弁当箱選び

 学校近くのショッピングモールへと、足を運んだ。桃亜ももあの弁当箱を、買いにいくためである。


 ぶっちゃけ弁当箱なら、ネットで買ってもいい。


 しかし桃亜は、自分で触って決めたいという。


「木箱とかあるんですね。駅弁感覚になって楽しいかもです」


「いいよな。目移りする」


 自前の弁当箱があるから、あたしは特に悩む必要はない。


 とはいえ、店には魅力的な弁当箱が数多く並んでいる。


「自分のは買ってあるのに、欲しくなってしまうな」


「たしか、いすゞさんのお弁当箱は、メスティンなんですよね?」


 そう。あたしの弁当箱は、いわゆるメスティンと呼ばれるものだ。取っ手付きの、飯ごうである。弁当を詰めるだけじゃなく、煮る・焼くなどの調理も可能なのだ。


「インスタントラーメンだって、作れちまうぜ」


「夢の調理器具ですね」


 ただし飯ごうとは違って、焚き火の上に吊るして調理はできない。


 あたしは、三合炊きのラージメスティンを、紹介する。


「そんな大きなサイズのメスティンが、あるんですね?」


「天ぷらも、できちゃうサイズだぜ」


「いすゞさん。わたし、決めました。これがいいです」


 一・五合炊きのメスティンを、チョイスした。あたしのと、同じサイズだ。


「いやいや、三合いけよ」

 

 あたしは、隣の三合炊きメスティンを指差す。


 桃亜がさっきからこっちを気にしているのは、わかっていた。


「さ、さすがに、図々しすぎます。作ってもらっているのに!」

 

「あたしは好きで作ってるから、いいんだよ」


「ですが、運搬の手間もありますし。このくらいが、お手頃なのです」


「いいから。出前で鍛えられてっから、気にすることないって」


 桃亜が持っていた分を取り上げて、三合炊きを押し付ける。


「三合炊きで作るラーメンは、うまいぞぉ」


「……ありがとうございます。では遠慮なく」


「とはいえ、高すぎん?」


 値段を見ると、三〇〇〇円を超えていた。弁当箱でこの値段は、学生にはきついと思う。


「一〇〇円ショップで、同じタイプが一〇〇〇円で売ってるが?」

 

 あたしは一〇〇円均一で八〇〇円くらいのものを買ったのだが、親に出してもらったぞ。


「こちらで、構いません。選んでもらったので」


 迷わず、桃亜はメスティンを持ってレジへ。


「次は、食材ですね。ついてきてください」


「何を作るか教えてくれたら、チョイスしてやるよ。封印したやつをナンチャラとか、言っていたし」


 怪しい調理器具を使うなら、こちらも気を引き締めて具材を選ばねば。


「わかりました。では封印を解いた代物を、お見せしましょう」


 スマホを取り出し、桃亜が画像を見せてくれた。


 半円状の空洞だらけのホットプレートが、画像に映っている。

 

「たこ焼き器か」


「はい。タコパをしようかと」


 なるほど。友だちとパーティするなら、タコパはアリだな。


「よく、そんなの持っていたな。桃亜って、関西出身じゃないだろう?」

 


「父が関西出身の友人から、プレートを譲ってもらったんです。けど、ウチではなじみがなくて、持て余してしまって」

 

 たこ焼きプレートは数回使っただけで、結局タンスの肥やしになっていたらしい。


「わたしがこちらに引っ越す際に、父が持たせてくれたのです。友だちができたら、これを開放せよと」


 伝説の道具か何かかよ、このたこ焼き器は?


「では、買い物をしましょう」


 あたしは、タコパでおいしくなりそうな具材を片っ端から選んでいく。


 定番のタコがなければ、何も始まらない。

 他には小エビ、ホタテ、チーズ類をチョイスする。


「モチなんていいぞ」


「いいですね!」


 桃亜は大食いだから、腹持ちがいい具材は喜ぶだろう。


 食材を買っているだけなのに、桃亜はもう唾液を飲み込んでいた。


「ホットケーキのミックスも、買うんですね?」

 

「ベビーカステラが、作れちゃうんだぜ?」


 あたしはその他にも、チョコやバナナ、ナッツ類を買う。


 そもそも桃亜は、オムライスを二つ食ってもまだ「腹減った」とか言い出す。


 とても、たこ焼きだけで桃亜の腹を満たせるとは思えない。


 たこ焼き以外でも、色々と作ってみよう。


「いいですね! デザートはそれにしましょう」


 さらに、デザート用の具材もゲットする。

 

「家に、ピックはあるか?」


 せっかく具材を買っても、ピックがなければ話にならない。もっとも、たこ焼き器ってピックもセットのはずだ。


「樹脂製のものが。プレートを傷めないそうです」


 他にも粉つぎ容器も油引きもセットで持っているという。

 

 じゃあ、道具類は買わないでいいな。

  

 一通り買い物を終えて、帰ろうとした。


 眼の前に、クレープの屋台が。


「ああ、いけません。粉ものをせっかく作ってくださるのに、粉ものの誘惑に負けてしまっては、何もお腹に入らないってことに」


「食っていいよ」


「ホントですか?」

 

「食材を切るのに、時間がかかるから。それに、あたしも食べたい」


「わかりました。では、ごちそうしますっ」


 クレープを持って、桃亜が戻ってきた。


 あたしは、両手が塞がってる。


「お持ちします」


「いいよ。重いぞ」


「……わかりました。では、どうぞ」

 

 両手に買い物袋を持つあたしに、桃亜がクレープを食べさせてくれた。

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