人間⇔動物メタモルフォーゼ
ちびまるフォイ
お前が言うな
「それじゃ仕事行ってくるよ」
「いってらっしゃい」
家を出るとさっそく鳥にメタモルフォーゼし羽を広げる。
空を飛んでいると社員と出くわした。
「部長、おはようございます。今日はハヤブサなんですね」
「ちょっと朝寝坊しちゃってね。急ぎたいんだ」
「でもハヤブサだと旋回しにくいですよ。ワシのがおすすめです」
「あほんと?」
飛びながら体をハヤブサからワシに変身してひとっとび。
なんとか会社につくと、ふたたび体を人間に戻した。
「うわ。急いでるのにエレベーター来ないな」
オフィスは20階。
エレベーターは朝の通勤ラッシュで各階停車しているようだ。
「外からいきませんか?」
「だな」
体を人間からイモリに変化させて壁をするする登っていく。
窓掃除の人に挨拶をして横をすれちがう。
「おはようございまーーす」
無事遅刻せずに出社ができた。
オフィスではみんな動物から人間に戻っている。
いつからか人間は自分が見聞きした動物に変身できるようになった。
走るときはチーターになれるし、力がいるときにはゴリラになれる。
「部長ききました?」
「え? もうプレゼンの結果出たの?」
「じゃなくて。3丁目で事件あったみたいです」
「近いなぁ」
「クマに変身した男が大暴れしたそうです」
「最近物騒だよな。こないだも高齢者の家にトラに変身した強盗団が入ったよな」
「ですね。猟友会もでずっぱりだそうで。求人サイトに募集かけてました」
「あれって求人してるんだ……」
変身できるのが当たり前になると、悪用する人も出てくる。
スマホでの通話を使わずイルカやコウモリの超音波交信なら足もつかない。
いざというときなネズミになれば、どこまでも逃げられるだろう。
「まったく。わたしたちは人間なんだから
いくら便利だといっても人間がデフォでありたいものだ」
「1回動物のよさ知っちゃうとなかなか難しいですね……」
仕事を終えたころ。娘から大事な話があると呼び出された。
その切り出し方的にだいたいの話題は予想できていた。
妻と一緒に指定の場所に向かうと、娘と動物が待っていた。
「お父さん、お母さん。私、結婚したい」
「あ、ああ。やっぱりそういうことね」
「それで。相手は誰なの?」
「この子」
隣には可愛らしい猫が座っていた。
さすがに真面目な席ということもあり、聞えよがしに咳払いして牽制する。
「あーー……君ね。ここは大事な話をしているんだ。
なのに人間に戻らず動物というのは……失礼じゃないか?」
「あのね、お父さん」
「いいや言わせてくれ。人生を左右する大事な場だ。
ちゃんと人間状態に戻ってから話しなさい!!」
「ちがうの! この子、本当に動物なの!!」
「……ん?」
「人間が動物になってるんじゃなくて、
正真正銘のまじりっけなしのガチ猫なの!」
「……はい?」
妻と顔を合わせる。
その目はあらゆる感情を感じない冷たい目。
「つまり……お前は動物と結婚したいと?」
「そう。この子は私が辛いときも一緒にいてくれた。
だから結婚して一緒に人生を歩みたいの!」
「明らかに寿命も違うだろう!? それに結婚ってのはだな。
人間同士がやるもので……それをペットとだなんて」
「あなた。現在この国では動物との結婚も条件付きで認められ
おおよそ25.6%の人が動物との結婚を選んでいるわ」
「お前はどっちの味方なんだ!」
「私はこの子と一緒にいたいの!
どうして反対するの!? わからずや!!」
「猫がいいなら、猫になってくれる人間を探せばいいじゃないか」
「この子がいいって言ってるじゃない! もういい!」
「あ! おいちょっと!!」
娘は猫に変身して、つれだっていた猫と逃げてしまった。
「ええ……?」
「あなた、どうするの?」
「どうするって……相手は猫だぞ……?」
「そうね。で、何を求めていたの?
自分が満足する人間を連れてきて、
それでいて孫なんか生まれちゃったりして、
自分が求める理想の娘や家族になってほしかった?」
「う、うう……」
心の深層ではそう思っていたが、
妻にズバズバ言われると自分が理想の押しつけをしていた気になる。
「ガチの動物と結婚だなんて……。
娘がそれで本当に幸せになれるのかなぁ?」
「あなたが認めた人間と結婚したって
本当に幸せになれるのかわからないじゃない。
それにあなたが想像できる幸せが娘の幸せなの?」
「うーーん……」
「それに、あなたは私と結婚して幸せ?」
「そりゃそうだろう。確かに最初の決断は勇気が必要だったけど」
「同じことよ。私と結婚するときには反対された。
でも結婚に種族もなにも関係ないのよ。
幸せのカタチなんてひとそれぞれだとあなたが言ったのよ?」
「そうだな……そうだった」
「それに動物と結婚して幸せだった家族は87%。
これは人間同士で結婚したケースよりも高い数値を……」
「そういうデータ分析はいいから! 探してくる!」
妻を置いて犬に変身する。
娘が逃げたときのフェロモンの香りを鼻でおいかけた。
「いた!」
娘と相手のガチ猫は屋根で空を見ていた。
「お父さん!」
「ここにいたのか……探したぞ」
「もう私達のことは放っておいて」
「その前に言ってなかったことがあったんだ」
「なに? いくら反対してもーー」
「……結婚おめでとう」
「……え? 認めて……くれるの?」
「いや、まあ手放しで喜んでいるわけじゃないが
お前がその人のことを好きだというのは本当なんだろう?」
「うん……」
「お父さんが気に食わなかろうが、結婚するのはお前だ。
お前がいちばん良いと思った人と結婚しなさい。
たとえそれが動物だとしても」
「お父さん……!」
「ただまあ、結婚したあとは去勢するとかしたほうがいいかもね。猫だし」
娘は笑った。その目には涙が浮かんでいた。
「でもどうして急に結婚を認めたの? あんなに反対していたのに」
「お父さんも思い出したんだ。結婚を話したときのこと」
「反対されたの?」
「ああ、お前とおんなじさ。血は争えないってことかもな」
「どうしてそんなに反対されたの?」
「当時はまだ珍しかったんだよ」
脳裏には昔の光景がうかぶ。
両親にはじめて妻を紹介した日の光景が。
「ロボットと結婚すると言ったとき、
今以上にめちゃくちゃ反対されたものさ……」
人間⇔動物メタモルフォーゼ ちびまるフォイ @firestorage
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