柔らかいものに包まれて
ありま氷炎
🍊
みんな俺のことが嫌いなんだ。
体はいつも冷たくて、手も足もなくて細長い体をしているから。
俺の姿をみると、逃げるか殺そうと襲いかかってくる。
だからみんな嫌いだ。
それに比べて、あいつはみんな好かれている。暖かくて柔らかくて、手も足もあって。
尻尾なんて真ん丸だ。
耳は長くて。
あいつをみると、誰もが可愛い、可愛いって近づいていく。
俺とは大違いだ。
あいつのことが俺は一番嫌い。
だけど、あいつは、あいつだけは俺に優しい。
俺にはあいつしかいない。
「うわ!出た!殺せ!」
昼寝したら大きな声がして人間が襲いかかってきた。
いたい。
いたい。
人間が俺を殺そうとしている。
俺はそこで寝ていただけなのに。
頭を殴られた。
もう死ぬしかない。
だったら、死ぬ前に一矢報いてやる。
うさぎ、うさぎがきやがった。
そのとたん、人間どもの殺気がおさまる。
うさぎはその間に俺に逃げろとばかり合図をする。
だけど、俺は瀕死だ。
もう死ぬ。
逃げる体力は残っていない。
だったら、その前にあいつらに。
だけど、うさぎはそれを俺にやさせない。
悔しい。
動かなくなっていく俺をみて、人間どもは気が済んだのか、いなくなる。
残ったのは俺と、うさぎ。
うさぎは近づいてくると、俺を頭を抱え込んだ。
口元によるな。
俺の牙には毒がある。
だけど、あいつは構わず、近づいて、俺の牙があいつを傷つけた。
「蛇。一緒だよ。一緒に逝ってあげる」
俺は蛇だ。
涙なんて出るわけがない。
だけど、俺の瞳から水がこぼれた。
うさぎは微笑む。
こいつはどうしようもない。
俺なんかに構うなんて。
うさぎの柔らかい体に包まれて、俺は暖かさを感じながら死んだ。
生まれ変われるなら、こいつを傷つけない、うさぎになりたいと思いながら。
柔らかいものに包まれて ありま氷炎 @arimahien
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます