妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。

向原 行人

第1話 婚約破棄?

「アルマ・ウォレス! 貴女との婚約を破棄する!」


 王族や貴族が集まるパーティで、第三王子であるトラヴィス王子の声が響き渡る。

 突然の事に驚いてしまったけど、呼ばれた以上は無視する訳にもいかず、王子の前へ。


「トラヴィス王子様。あの……私は貴方様の婚約者ではありませんが」

「……っ!? す、すまない。確かにその通りだ。どうして僕は貴女を婚約者と勘違いし、更に婚約破棄などと失礼な事を言ってしまったのか。誠に申し訳ない」

「いえ、私よりも真の婚約者であるイザベラを気に掛けてあげてくださいませ」


 妹のイザベラが六歳の頃に、トラヴィス王子と婚約が決まった時から、私は微笑ましく思っているだけで、本当に何もない。

 王子なので敬う気持ちはあっても、それ以外に何とも思っていないし、偶然会う事があっても短い挨拶以外はした事がないのに、どうしてイザベラと私を間違えたのだろうか。

 だけど今は、そんな事よりもイザベラね。

 あの子の性格を考えれば、トラヴィス王子に婚約者である自分と私を間違えられて、怒らない訳がないもの。

 でも、トラヴィス王子の側にイザベラが歩み寄ると、意外にもニヤニヤしながら口を開く。


「トラヴィス様。ダメですよぉ? 愚姉と貴方の可愛い婚約者を間違えるなんて」

「あ、あぁ。本当にすまない。自分でもどうしてあのような間違いをしてしまったのか……」


 あれ? イザベラがそこまで怒ってない?

 それどころか上機嫌ですらある?

 どういう事なの? 普段のイザベラなら、絶対に許さないって叫んで、父上やトラヴィス王子が宥めるのに。


「それよりトラヴィス様。他に仰る事があるのでは?」

「え? ……あ、あの事か。どうしてイザベラが既に知って……こほん。この度、大司教様により、私の婚約者であるイザベラ・ウォレス嬢が聖女に認定された。皆もイザベラ嬢の事は、聖女様として扱うように」


 イザベラ……凄い! 聖女様に認定されるなんて!

 聖女様という事は、この国一の光魔法の使い手だという事で、これからは国民の為にその力を使っていくのね!

 姉として、本当に誇りに思うわ!

 それから、イザベラが聖女就任の挨拶をして、あとは歓談となった。

 なので、名前を呼ばれる前に宮廷魔道士の方々と話していた魔法理論について、再び意見を交わそうと思っていたら……突然騎士さんたちに囲まれてしまった。


「アルマ・ウォレス嬢。貴女には、禁忌とされている闇魔法の使用疑惑がある。同行いただこう」

「闇魔法? いえ、私が研究しているのは時魔法ですが」

「時魔法? そんな魔法は聞いた事もないぞ! デタラメを言うな!」


 えぇ……闇魔法がダメっていうのは私も知っているから、家の書庫の魔道書も、闇魔法の部分は読んでないのにー!

 それに、時魔法はちゃんと実在する。

 八歳の時に地下室で見つけた魔道書を読み、独学で研究したおかけで、異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったのに!

 だけど騎士さんたちは話を全く聞いてくれず、両腕を掴まれてしまった。


「お姉様。闇魔法だなんて危険な魔法を習得していたのですか? なんて恐ろしい。一体、どこでそのような魔法を学んだのやら」


 え? 家に秘密の地下室があるのも、その入り方を何故か知っていて教えてくれたのはイザベラなのに。

 背中にイザベラの声を聞きながら、私は騎士さんたちの詰所へ連れて行かれる事になってしまった。

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