異世界マフィア英雄譚 〜転生先は犯罪都市でした〜

@kinosan3

第1話 三度目の銃口

 雨の降る夜、青木海斗はコンビニでアルバイトをしていた。

 深夜割り増しの給料と十分に一度程度の接客、金欠大学生にとって最高のバイト先だと思っていた。そう、その時までは。

 

 レジに客が向かってくる。レジ下で触っていたスマホから目線を上げながら、いつものように挨拶をする。


「いらっしゃいま……」

「おい!金を出せ!!」


 覆面を被った男が俺に拳銃を向けていた。


「は、はいっ」


 突然のコンビニ強盗に気が動転してしまい、レジを思うように開けられない。


「早くしろ!殺すぞ!!」


 ようやくレジが空き、中にあるお札を慌てながら男に渡した。お札をぐしゃっと握りしめ、男は店を出て行こうとした。

 しかし、平静を失った俺はすぐさま警察に電話しようと、スマホを取り出してしまった。その瞬間、男が振り向き俺と目が合う。


「おい!何してんだ!!」


 再び拳銃を向けられる。そして、激昂した男が引き金を引いた。銃声が響き、弾丸が俺の胸を貫いた。


 目の前が真っ赤に染まり、俺は崩れるようにして地面に倒れ込んだ。


「死にたく、ない……」


 弾けるような痛みの中で、俺は人生の続きを願った。この世界じゃなくてもいい。どんな世界でもいいから・・・。

 そんなことを考えながら意識は薄れていった。

 

 こうして青木海斗は二十歳で人生の幕を閉じたのだった。いや、閉じたはずだった。

 




 



 目が覚めると、俺は薄暗く汚い路地裏にいた。ネズミはゴミを漁り、人は路上に倒れている。下水のような匂いが充満しているここは、まるで地獄かのような世界だった。


「ここはどこだ……俺は……コンビニ強盗に撃たれて……」


 胸を触って確認するが、銃で撃たれた傷がない。


「走馬灯なのだろうか、それとも……」


 走馬灯であるとすれば、下水のような鼻を刺す匂いが再現されるのだろうか。そもそもこんな景色は記憶にはない。

 ふと、死ぬ時にまだ死にたくないと願ったことを思い出す。俺の頭の中に転生という二文字が思い浮かんだ。


「まさかな……でもこの感覚、現実みたいだ」


 どんな世界でもいいと言ったが、結構治安の悪い世界に来てしまったのかもしれない。


 とりあえず、この世界を知るためにも、まともに話しかけられそうな人を探そう。そう思って俺が歩き始めたちょうどその時、銃声が遠くから数回聞こえた。そして、その銃声は次第に俺に近づいてきた。音の出どころは、逃げる一人の男と追う三人だった。俺が危険を感じて逃げようとした時はもう手遅れだった。




 男は逃げていた。男の名はレイブン、マフィアを介さずに麻薬を売って多額の利益を得ていた。ついにマフィアを怒らせてしまい、現在追われる身である。魔導銃を持った三人の追手に命を狙われながらもレイブンが生きているのは、彼の能力『韋駄天』によるものが大きい。『韋駄天』は魔力を使用して一瞬だけ超人的なスピードを得ることができる能力である。

 しかし、レイブンの魔力は『韋駄天』の連続使用により尽きかけていた。ここまでか、レイブンがそう思った時、目の前に海斗が立っていた。レイブンは魔力を振り絞って『韋駄天』を発動させ、海斗に急接近し背後に回り込み、護身用魔導銃を海斗の頭に押し当てた。




 俺はまさに今、銃口を向けられている。本日三度目である。そろそろ慣れてきたかもしれない。

 俺に向かって走ってきた男が、急に消えて背後に現れ銃を突きつけてきた。何が起こったか分からないが、どうやら俺は人質となってしまったみたいだ。

 そして、男を追ってきた三人も追いつき銃を構える。


「マフィアといえど自分のシマの一般人を人質にされたら手を出せねえだろ」


 俺に銃口を突きつけつつ男が挑発する。


「レイブン……!ヤクの売人ごときがマフィアを舐めるな!」


 追手側の赤髪の女がそう言い放つと、俺の背後のレイブンと呼ばれた男に向けて銃を撃った。銃声の直後、白い光が俺の顔の真横を通り抜ける。そして、レイブンの脳天に直撃する直前、レイブンは俺に向かって引き金を引いた。


 「しまった……」

 

 赤髪の女の声が悲痛に響いた。

 

 しかし、レイブンが撃った白い光は、俺の頭に向ってきて……俺に当たった瞬間消滅した。

 それと同時にレイブンの頭が吹き飛び、後ろに血の雨を降らした。



 場は一瞬静まり返った。レイブンの倒れる音だけが耳に残る。


「……え?」


 俺は何が起きたのか理解できなかった。自分が撃たれたはずなのに、何一つ傷ついていない。

 赤髪の女が唖然とした表情でこちらを見ている。


「おい、今の見たか?」


 彼女の背後にいる男が恐る恐る尋ねる。もう一人の追手も同様に驚きの表情を浮かべていた。


「ああ……間違いなく直撃したはずだ……なのに、消えた……?」


 俺は無意識に頭に手を当てたが、やはり傷一つない。それどころか、どこにも痛みすら感じない。

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