星降る森の小さな約束

水月 りか

プロローグ


 遠い昔、夜空に散りばめられた星々が地上に降り注ぐ森がありました。

 その森は「星降る森」と呼ばれ、人々からは神秘の地とされています。

 伝説によれば、森の中心にある「星の泉」は、訪れる者の願いを叶えると言われています。

 しかし、泉の力は森全体を支える命そのものであり、無闇に触れることは森を枯らす危険を孕んでいました。

 そのため、森の精霊たちは厳しい掟を守り、泉の力を外界から隠してきたのです。


 森の近くに住む少女リリィは、そんな伝説を聞かされて育ちました。

 リリィは幼い頃に両親を失い、村の外れの小屋で一人静かに暮らしています。

 村人たちはそんな彼女を不思議な目で見ていました。

 理由は簡単です――リリィは幼い頃から星降る森の中に迷い込んでは、不思議な出来事を体験していたからです。


「森は危険だから近づいてはいけない」


 村人たちが何度も警告しても、リリィは森に足を踏み入れるのをやめませんでした。

 星のように輝く蛍や、風に揺れる光る木々――森は彼女にとって唯一の安らぎの場所だったのです。

 そして、何よりもリリィは星降る森に強い懐かしさを覚えていました。

 それは、まだ幼い頃の記憶が原因でした。


 ――星降る夜、森の中で一人の少年と出会ったこと。


 その少年は金色の髪と優しい瞳を持ち、リリィにこう言いました。


「君がここに来てくれて嬉しいよ。僕は君をずっと待っていたんだ。」


 その言葉が何を意味するのか分からないまま、リリィは次第にその記憶を夢だと思い込むようになりました。

 けれど、星降る夜になるたび、リリィはどこか心がざわつくのを感じます。

 まるで、森の中で誰かが彼女を呼んでいるかのように……。


 そんなある夜、いつもと違う強い光が森の奥から放たれました。

 それはリリィが生まれて初めて見るほど美しい光……。

 リリィは星空に誓うように小さくつぶやきました。


「もし本当に願いが叶うなら……あの日の少年にもう一度会いたい。」


 その瞬間、星降る森の伝説が動き出すのでした。

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