第4話

「うむむ…………ハッ!」

 大柄な男が目を覚ました。

「起きたk…」

「クラン様!?……いた!クラン様ァァァ!私が不甲斐ないばかりにィィ!申し訳ありませんんん!!!」

 ルマが声をかけようとした瞬間、大柄な男は近くに倒れていた少年の前で砂漠の砂に顔を埋めながら頭を下げた。

「おい、おいあんた。」

「うぅ……ヴヴヴヴぅ……………」

「聞けよ!」

「うひゃぁ!?」

 全く反応しない男に苛立ったルマは、水筒一つを犠牲に男の頭に水をかけた。

「冷静になったか?」

「あ、あんたは……?」

 男は全身を覆う服の内側から帯剣を見せた。

「命の恩人にそんなことしていいのか?」

 ルマが視線で男を誘導する。男は警戒しながらも目線をそちらに向けると、そこには地面に転がる口の空いた水筒の数々があった。

 そこで男は自分の喉が潤っていることに気付いた。男はそれを事実と認め、剣に手を掛けるのを止めた。

「非礼を詫びよう、助けていただき感謝する。」

「バカじゃないみたいで良かったよ。そっちの子どもももうすぐ目を覚ますだろうさ。」

「そうだったのか……………」

「………んん?」

「おぉ!クラン様!」

「あれ?ザミオラ………?」









「あなたが助けてくれた方ですね、本当にありがとうございました。」

 大柄な男はザミオラ、少年はクランと名乗った。

「私からも今一度。」

 二人に頭を下げられても、謙虚に振る舞うどころか鼻をならしてザミオラに近付いた。

「あんたら、倒れてたから期待はしてないけど、金はある?砂漠で水がどれだけ貴重か、分かるよね?」

「それは……」

「もちろん、心得ております。」

 ルマの予想からはずれたが、ザミオラが丁寧に返す。

「へぇ、それなら良かった。一体何で返してくれるのかな?」

「我らはミギラ王国に向かっております。そこにて事なきを得た後に。」

 大分遅い恩返しにルマは顔をしかめた。

「それじゃあ遅くないかい?そんな悠長に待ってられる程砂漠は甘くないんだ。それに、そう言って逃げられるのは困るよ。」

 ルマは腕を組んで決して一歩も退かないと言った様子でザミオラを睨んだ。

「う……」

「なら、これを渡すよ。僕達がお礼をするまで、これを預ける。」

「それは!」

 クランの差し出した物を訝しげに受け取ったルマは、それを見て目を見開く。

 それは国章。王族にしか所持を許可されないブローチだった。

「………訳アリだとは思ってたけどさ、これは厄ネタすぎるでしょ。」

 ルマは呆然とそのブローチを眺めながら、ボソリと呟いた。

「水は助かった、これ以上君に迷惑を掛けるつもりはないよ。行こう、ザミオラ。」

「………っ、は!」


「待て。」

「なんだ?」

 ザミオラがまだ何かあるのかと、目線を鋭くした。

「倒れてたんだから、食料もないんだろ。そんなんでツヅリ港には着かないよ。」

「え?」

「そんな筈はないぞ!この地図にはあと一日も歩けば………!」

 ザミオラの取り出した地図をしげしげと見つめる。

「………バカだなぁ。」

「なんだと!?」

 ルマの言葉にザミオラは激昂する。

「何か間違ってるのかな?」

「御言葉ですが、上下が逆。」

 ルマはそう言ってザミオラの持つ地図を反転させた。

「な!?」

 そして、無言で現在地をトントンと指で叩き、ツヅリ港までの道を指でなぞった。

「……戻るにしても時間がかかるし、ここから向かうにしてもこれじゃあ後何日かかるんだろう………」

 クランはそれを見つめて不安そうに呟いた。

「も、申し訳……ございません…………」

 クランが俯き、ザミオラが膝から崩れ落ちた。

「………ハァー、案内してやるよ。」

 ルマの申し出に二人は顔を上げた。

「食料もそれなりにあるしな、礼を貰うためにもあんたらには無事に行ってくれないと困るからな。

 それと、これは返す。」

「そうか、分かったよ。君の申し出に最大限の感謝を。」

「く、恩に着る。」

 ルマはブローチをクランに返した。ルマの心変わりには、理由があった。もし、このまま見捨てれば確実に二人は死ぬ、そうしたら手元に残るのは国章のブローチのみ。そんなもの持っていたらあらぬ罪で処刑されるのは目に見えている。

 それを回避することと、礼金を貰うこと。どちらも取るには同行の申し出は最適解だった。

 ルマは心の中で、食料を無理矢理提供してきたあの強欲な顔をした店主に感謝をした。

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