ドルススタッドの鐘を鳴らして
ぜじあお
第1話 ヒューラの騎士たち
ガヨが意外に思ったのは、この話を団長とエイラスが受け入れたことだった。
「俺は賛成ですね。新たな戦力が来れば、騎士団にもいい刺激があるんじゃないでしょうか」
白金の髪を揺らしてエイラスが席についた。エイラスの動きには余裕があるが、ガヨは首を左右に振って団長に向かって進言した。
「俺は反対です。傭兵の騎士団加入なんて」
ここはヒューラ王国首都第三騎士団、作戦立案室。
新進気鋭の分隊は、団長から傭兵加入についての意見を聞かれていた。
傭兵は言葉を変えただけの野盗。
それが街の人々の感想だ。
飢饉や紛争によってあぶれたものが集まって野盗となるーーどの時代でも少なからずあることだが、ヒューラ王国では、彼らを傭兵として登録し、依頼を達成すれば給金と身分を保証する傭兵制度を整えた。
傭兵として与えられる身分は低く、完全出来高制で収納も安定しない。加えて国や貴族からの依頼は断ることができず、常に命令に従うことが求められる。それでも学や身寄りの無い者の傭兵登録は多かった。
既に野党として生計を立てている者には意味をなさない制度ではあった。だが、これから道を踏み外さんとする者を救えるーーというのは建前で、戦闘力のある者の確保、そして都合の良い日雇い労働者だっため、国にとっては悪い制度ではなかった。
ーーだとしても。
「意識の低い傭兵を騎士団として受け入れるとあれば、団員の士気の低下や錬度に関わります」
騎士団としての誇りを高く持つガヨにとっては我慢ならない。
騎士団への入団には厳しい訓練や試験をパスし、かつ貴族としての寄付が必要だった。
国民の剣であり、盾であるーーその矜持を汚される気がしてガヨは拒否感が強かった。
「そう喚くな」
大柄な体躯を窮屈そうに椅子に収めた首都第三騎士団団長であるルガーはガヨを諌めた。四十代も後半に差し掛かろうとする彼だが、その筋肉は衰えることを知らず、服の上からでも隆起しているのがわかる。
ルガーはテーブルにあったコップの水を飲み干した。
「ま、良いところもある。手早く戦力の増強ができる。慣例通り下部組織の兵団から育てるよりも安上がりだ」
「修道院や周りの国はうるさく言わないでしょうか」
部屋の端に立っていたカタファが手をあげながら言った。カタファは二代続く大商人の三男で、市民上がりの珍しい団員だ。灰色の髪をバンダナでまとめており、異国感の漂う雰囲気がある。
「さぁな。それはもっと上が考えるもんだ。……ここまででお前らの意見は分かった。傭兵受け入れは決定事項だが、ここ出た意見は参考にさせてもらう。で、明日の訓練だがーー」
その後は通常の連絡事項が続き、強制的に傭兵の話題は切り上げられてしまった。
ガヨが作戦立案室を出ると中庭が騒がしかっあ。
「あれが傭兵ですか」
後ろからエイラスが呟く。エイラスの白金に近い金髪は王族の遠縁たる証だ。ガヨも目線を中庭に落とした。戦闘要員とは思えないほど怠けた体や、汚らしい服を着た者、ろくに手入れされていない武具を持った者が目立つ。
「あ、でも修道服の……赤髪とその横の茶髪は大分きれいだな。それに背中にあるのはコーソムの紋章か」
カタファがガヨとエイラスの間に入り、手すり壁に肘を預けながら、話題の人物を指差す。白い服は修道院出身を表すもので、セーラー襟の背中部分にはコーソム修道院の紋章が刺繍されている。
赤髪の男は、横に立つ茶髪の男と話している。赤髪は背も高く、筋肉質で体に厚みもあった。背中には大型の槍を携えており戦闘の経験もありそうだった。隣に立つ男は赤髪の男と比べると小柄に見える。武器は持っていないが、腰ベルトに小さなポシェットを複数をつけており、後方支援職であることがわかる。
「ウォリアーモンクですね。あれらは使えるんじゃないですか」
エイラスが腕組をして興味深そうに身を乗り出した。
視線に気づいたのか、赤髪の男がガヨたちがいる二階の回廊に顔を向けた。すぐに隣の茶髪の男に耳打ちをし、こちらを指差す。茶髪の男も視線を追うようにしてガヨたちを見上げ、軽く会釈をした。
「使えるなら、死ぬまで使う。それだけだ」
ガヨは吐き捨てるように言った。適性のない人間が騎士団にいること自体が不快であったし、不必要な人員増加は不和を招くというのがガヨの考えだった。
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