西へ向かうバス

つばさ

西へ向かうバス

 少年はバスに乗る。

 料金はいらない。ぼくはとってもワクワクした気持ちだ。このバスはきっとぼくを目的地まで届けてくれるから。

 バスの運転手さんが、にこりと笑顔を向けてぼくに話しかける。

 「このバスは西へ向かうよ!」

 ぼくは笑顔でかえす。

 「そこにはいかないよ!途中で降りるんだ!」

 「そうなの?そこに寄るかどうかはわからないけれど」

 「大丈夫だよ!きっとバスはそこに寄ってくれるから!」

 ぼくは一番前の席に座る。窓の外は霧がかかっていて、何も見えない。


 

 アナウンスが鳴る。「西に向かいます。西に向かいます。」


 

 乗客が乗り込む。俯いた女性だ。暗い顔をしている。

 ぼくは心配になって話しかける。

 「お姉さん。どうしてそんな暗い顔をしているの?」

 お姉さんは少し考える。

 「彼に愛してるって伝えたかったの。」

 ぼくは答える。

 「大丈夫だよ。相手の人は、お姉さんの気持ち知ってるはずだよ。だってこのバスに乗ってるんだもん。」

 お姉さんは笑顔になる。

 「そっか。そうよね。話を聞いてくれてありがとう。」

 お姉さんは一番後ろの席に座った。


 

 アナウンスが鳴る。「西に向かいます。西に向かいます。」


 

 乗客が乗り込む。 年老いた男性だ。 杖をついている。ぼくは席を譲る。

 「おじいさん、ここの席どうぞ。」

 「ありがとう。とっても優しい少年だね。」

 ぼくは誇らしい気持ちになる。

 おじいさんは独り言をつぶやくように話し始める。

 「ひとつ後悔があるんじゃ。」

 ぼくは首を傾げる。

 「どうしたの?」

 おじいさんはつぶやく。

 「ばあさんと喧嘩したままこのバスにのってしまったんじゃ。」

 ぼくは答える。

 「大丈夫。おばあちゃんもきっと後悔してるよ。悲しんでるよ。だってこのバスに乗ってるんだもん。また会ったら謝ればいいんだよ。」

 おじいちゃんは笑顔になる。

 「そうじゃな。きっとすぐに会える。その時に謝ろう。」


 

 アナウンスが鳴る。「西に向かいます。西に向かいます。」

 

 

 女性がバスへ乗り込もうとする。少年は急いでその行為を止める。

 「このバスは乗っちゃダメだよ、おかあさん。」


 少年は笑顔で女性に話しはじめる。

 「大丈夫。ぼく、またおかあさんのところにいくよ。おかあさんのあかちゃんになるよ。」

 少年は振り向いて運転手に声をかける。

 「運転手さん、ありがとう!ここで降りるね!」

 「ここでいいのかい?このままいけば西の果てにいけるよ?」

 「いいんだ!ここまで乗せてってくれてありがとう!」


 少年は女性と手を繋いでバスを降りる。バスはそのまま西へ向かった。

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