第6話

「はっ!!」

「おはよう、燈華」


放課後の保健室。

私が目覚めてからだいたい10分くらい経っただろうか。

私の傍で眠っていた燈華が目覚めた。


「彩ちゃん、大丈夫なの?」

「うん、ごめんね心配かけて」

私たちは先生にお礼を言うと、保健室を後にした。


帰り道。

せっかくだし夕飯を一緒に食べようと、駅周辺のファミレスへと向かう道中。

燈華が当然の疑問を口にする。

「ところで、なんで倒れちゃったの?彩ちゃん、そんなに緊張しいじゃないよね?」

「あー、あはは…なんでだろうね?」

言えない。

先輩に見惚れて意識が飛んだなんて。

「まぁ、それはそれとして!彩ちゃんの寝顔が見れたから私はいい思いしたんだけどね~」

それはお互い様では?と思ったがぐっと堪えた。

「それは私もだけどねぇ。燈華、幸せそうに寝てたよ?」

堪えられなかった。

「な、なななななな…!!!!!!!!!」

燈華は顔を真っ赤にしていた。

「もう、なーにをそんなに焦ってるんだか!さ、早く行くよ!」

私は燈華の手を取り、走り出す。


駅周辺にあるファミレスに着いたが、同じ制服を着た少女たちの姿が多かった。

待ちは8組。

「いやー、予想してたとはいえ、やっぱり混んでるねぇ~。どうする?別の店探す?」

「うーん、2人なら喋って時間つぶせるし、別にいいんじゃない?」

「それもそうかも!私、彩ちゃんが中学のときどんなことしてきたのか気になるもん!」

「それもお互い様。私も燈華の話、聞きたいよ」

「じゃあ決まりだね!」

と、受付に名前を書きに行こうとすると、待機列の方から声をかけられた。

「おや、また会った。もう具合は大丈夫なのかな?」


嘘でしょ、と思った。

「ねぇ燈華、私のほっぺたつねってくれる?」

「えっいいの!…っじゃなくて、え、いいの?」

「うん、お願い」

燈華は訝しみながら私の頬をつねった。

痛い。

「夢じゃ、ない…」

「あぁ。私はここで、あなたと話をしているわ。蔡姫彩さん?」

私はただ困惑した。

なんで雛芥子先輩がこんな場所に?

私の混乱が伝わったのか、燈華が聞く。

「あの、さっき彩ちゃんを保健室に運んでくれた先輩ですよね?彩ちゃん、困ってるみたいなんですけど、あなたが何かしたんじゃないですか?」

詰め寄る燈華を制止する。

「ごめん燈華、大丈夫。この人は、美術部の部長さんなの」

「えっ、この人が…?」

雛芥子先輩は、相変わらず美しい白髪を手でさらいながら告げた。

「今、紹介に預かった雛芥子禊です。まぁ、蔡姫さんが倒れたのは、ある意味私のせいだけれど…」

「あ゛あ゛?」

燈華から聞いたことのない声がした。

「落ち着いて燈華!違うからね!?」

「…ふふっ。良いね。蔡姫さん、あなたは良い友人がいる。本当は一緒のテーブルで夕食を、と思っていたけれど、2人の夕食を邪魔しちゃいけないね」

雛芥子先輩は身を引こうとする。


「うっ…」


雛芥子先輩が体勢を崩す。

私は咄嗟に身体を支えた。

「大丈夫ですか?」

「あぁ、ありがとう。少しだけ、視界が揺らいでしまってね」

そう告げる表情は穏やかだ。

まるで慣れているように。

先輩は燈華に聞こえないように、耳打ちしてくる。

「もし良ければ、明日の昼休み、美術室へ来てくれるかな。お礼と、お詫びをさせて欲しい」

先輩の瞳が、私を見通しているかのように赤く染まった、気がする。

「えぇ、向かいます。明日必ず」

「ありがとう」

先輩は私から離れると、待機列へと戻って行った。

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