第3話
高校の入学式。
アニメや漫画だと肝心の入学式の前から出会いがあったりするけれど、現実はそうもいかない。
3年ぶりに誰かと再会することもなく入学式を終え、私の高校生活は幕を開けた。
教室へ向かい、出席順に割り振られた席に着く。
名字がさ行である私は、かなりの確率で廊下側の窓際最後列が割り振られるが、今回もそうだった。
これまでに9度繰り返してきた廊下側の人間観察を行っていると、隣の席から声をかけられた。
「ねぇ、もしかして彩ちゃん?」
見覚えのある顔だった。
「…っ!そーいうあなたは、
小学生の頃と同じように、大袈裟に振る舞う。
ノリってヤツだ。
「覚えててくれて嬉しいよ~!中学で引っ越すって聞いて悲しかったけど、なんで戻って来てくれたの?」
「何年も一緒に居たんだし、3年くらいじゃ忘れないよ。…まぁ、色々あってね。っていうか、燈華は変わらないね。あの頃と同じ眼してる」
どんな眼~?と言いながら微笑む燈華。
いつまでも見ていられる身振り手振りもあの頃のまま。
彼女とは家が隣同士で、幼稚園からずっと一緒だった、幼なじみだ。
私はスマホこそ持っているけれど、人との繋がりは苦手だとメールアプリなどは入れていない。
それ故にクラスで孤立したり、お節介に巻き込まれたりしたけれど、燈華だけは何も言わずに側に居てくれて、それがありがたかった。
燈華と再会できて嬉しくなった自分に少しだけ驚いたが、納得できた。
それからは、燈華からこの街の3年間を聞いていた。
キーンコーンカーンコーン、と小気味よいチャイムが鳴り響き、黒スーツの女性が教室へと入ってくる。
「えー、今日からこのクラス担任の
教壇に立つ女教師が定型文で挨拶をする。
私としてはありがたい。
独特な個性溢れる教師とは相性が悪いとすでに学んでいるから。
「早速だが、自己紹介を始める。出席順でやるから、まずは赤城から…」
自己紹介もすぐに順番が回ってくる。
「蔡姫彩です。中学3年間だけ別の街に居ましたが、それまではこの街に住んでいました。早い話が出戻りです。よろしくお願いします」
話す内容が決まっている分、今年は楽だった。
しかし。
「…って、あれ、どうかした?」
クラス中が鎮まりかえる。
何かおかしいことを言っただろうか?
チラりと燈華を見るが、ニコニコしているだけで何も言ってくれない。
「…あ、あの!!」
静寂を切り裂いたのは1人の女子だった。
「蔡姫さんって、あの蔡姫彩さんなのです?」
答えたのは私ではなく、芦原京女師だった。
「あー、みんなの想像通り、蔡姫はかつて
私が、有名人?
だとしたら、そんな私に嫉妬させたあの絵の作者はもっと有名なのだろうか。
自己紹介が再開しても、私の頭の中は放課後の美術部見学のことでいっぱいだった。
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