2人のときは、手を繋ぐ。

御堂藍莉

第1章

第1話

手。

それは人体で唯一、無限の可能性を秘めていると、私「蔡姫彩さいきあや」は考える。

人間は脳で考え、巧みに手を操りを形にする。

創造も破壊も、全ては人の手にかかっている。

だから私は、自分の内に眠る衝動を形にした。


それは、絵だった。

小学生の頃、私は県から賞を貰った。


両親は言う。


『彩は表現の天才ね』

『お父さんたちは誇らしいよ。まさか彩にそんな才能があったなんて』


違う。

私が伝えたかったことはそうじゃない。


それからの私は、さらに芸術にのめり込んでいった。

自ら描くだけでなく、大きな美術館にも通い、絵画コンクールの受賞作にも目を通した。

その中で、もっと大きな街に行きたいと無理をいい、中学校は受験をして、地元を離れた。


中学時代は退屈だった。

せっかく国内最大級の美術館のある街に引越したのに、そこに飾られているのは既に名画と呼ばれているものばかり。

この時期は、私自身もクオリティの低い作品しか生み出せなかった。

それでも、あの街では名画だ天才だと持て囃され、私はさらに気落ちした。

想定外だったのは、修学旅行で地元に向かうことだった。

3年ぶりに足を踏み入れた地元には、活気づいているとまでは言わずとも、確かに芸術の文化が根付いていた。


私はまた、思い出の美術館へと向かう。

小学生の頃、私の作品が展示されていた場所には、別の作品が展示されていた。


作品名「握る手」

作者は、地元高校の女生徒だという。


私は辺り一面の音が消え、時が止まったような感覚に陥った。

それほどの、衝撃だった。

この作品は、昨年行われたコンクールの大賞受賞作だという。


コンクールのテーマは「激情」


…なるほど、完全にすべてが繋がった。

そして、同時に嫉妬した。

この作品は、私には絶対に描けない。

それほどの感情ちからを、この作品から感じた。

私はすぐに、両親に連絡した。


私は春からの高校生活を、生まれ育ったこの地元で。

この作品を生み出した生徒が在籍する高校で過ごすことを決めたのだった。

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