プロメテウスの夜明け

@TOKAGE123

第1話 平凡なる修士、TS転生

青春なんてなかった。

ただ自分が周りより幾分か優れているという自負だけが心の支えだった。

将来は理学系の著名な研究者になる妄想もした。

そして一応、私立としては最高峰と呼ばれる大学に入学した。

しかし、結局自分は天才どころか秀才ですらなかったことを思い知った。

…何があったって?話したくもないね。

入学時は旧帝大院にロンダするなんて言っていたが、結局、内部進学、それも人気のない原子力専攻を選んだ。

そこからは少し意外な変化が起きた、どうやら自分はこの分野との相性がいいらしい。だから少しは頑張って勉強したのだ。

…まぁ結局それでも普通程度の修論が完成しただけだったけど。

誰もいなくなった研究室を出て空を見上げる、もう夜のとばりが下りている。

就職先は関西だ。博士課程?ありえない。

…この東京の空を見るのもあと少しだろう。

そうして暫く空を眺めて黄昏れていた。











―この世界は今、危機に陥っています―

―原因は万物のエネルギー源たる魔素の枯渇です―

―なのでどうかこの世界を救ってください…あなたの…叡智で―






「…ん?」

気が付いたらすがすがしいほどの青空となっていた。

…は?さっきまで俺は夜空をながめていたはず…!?

「どうなってやがっ…つ!?」

と、同時に強烈な頭痛を感じた。

そしてまるで高圧ポンプで直接頭に注がれる「記憶」。

魔法世界シャングリラのポロ王国の貴族令嬢「レイエア・フォン・パウル」のこれまで9年分の人生…そのすべてを。




数分もすれば頭痛が収まった。そして、俺はこれでも元秀才を自負していた男だ。

…大体状況は分かった。どうやら俺は異世界転生したようだ、と.

…手のひらを見てみればシミ一つなく、手足は華奢ですらっとしている。

もう一つ情報を加えよう、どうやら体の性別まで変わってしまったらしい、私は。

…私?…どうやら精神的な性別すら変えられかけていそうだ。

この9年間、病弱だった私はずっと部屋に引きこもっていたらしい。

そして今調子が少し良かったから、屋敷を抜け出して、外に出て、そこで前世の記憶を思い出したということか…?いや少し時系列がおかしいか?

近くの水たまりをのぞいてみる。そこには緑色長髪をおさげにした可愛らしい少女の顔が映る。

…おかしい、いくら少し調子がいい時だとしても顔の血の巡りが良すぎる、病弱だったはずでは?


―それはあなたが持つスキル【イデアスキル:プロメテウス】の効果によるものです


そう、どこからともなく声が聞こえてきた。

!?誰だ?


―すみません、あまり時間がないのです、簡単に、私はあなたをこの世界に送り込んだ上位存在です、あなたにはこの世界を救ってほしいのです―


飲み込みの早い私でも流石に意味が解らないよ!?


―とりあえずあなたが今健康なのは、あなたの【プロメテウス】の能力の一つ、体内の反物質炉から変換炉を通して生命エネルギーが体中を巡っているからです。―


えーっと????


―もう時間です、兎に角、今はそのスキルを使いこなせるようになってください、では―


「ちょっと!待って!」

…あの声は、全く聞こえなくなってしまった。わけわからん。

…取り敢えず、状況を整理しよう。


私の体の中には反物質炉があり、しかも稼働中、そこからの生命エネルギーで私は元気100%、というわけだ。

…いや、色々と言いたいことが多すぎて…もういいや。

しかもあの声、イデアスキルって言ってなかった?


この世界の人類の一握りのみが持つスキル、コモンスキル。

魔王や勇者などの英雄たちが持つスキル、英雄スキル。

知的生命体としての限界を超えたものが持つスキル、イデアスキル。

がある。


…もう帰っていいですかこれ、クーリングオフ、元の世界に戻して!

「お嬢様!!!」

「あ」

振り返るといかにも使用人といった感じの女性が、こちらに駆け寄ってきた。

そういえば貴族のわりに使用人はこの女性以外見たことなかったな?案外爵位は低い方なのかも?

「お嬢様!」

「あ、はい」

「…お嬢様?」

え、なに?

「随分と体調がよさそうというか…めちゃくちゃ元気!?」

女性の言葉遣いが荒れる、普段はこんな感じなのかもしれない。

「い、一体なにか」

ふーむ。何がって

「気が付いたら元気になっていただけ」

「ななな、なんと!?あのおぞましき病魔が一瞬で!もしや仙人様の類が偶々通りかかって!?」

「…ねえ」

「…!?はい、お嬢様、どうされましたか!?」

「帰ろう」

「へ?」

「そろそろ日が落ちるから」

「そう、ですね」

とりあえず魔物とかいるみたいだしね、この世界、暗くならないうちに帰ろう。

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