神様の箱庭

滝久 礼都

第1話 箱庭の人間

 私は『大いなる意識』という神の如き存在のほんの “一欠片ひとかけら” でできている。

 その “一欠片” を『たましい』と呼ぶこともできる。

 それは見ることもできないし、触れることもできない。けれどもそれは確かに存在している。

 全ての “私たち” はその “一欠片ひとかけら” であり『たましい』なのだ。



 宇宙の中の『地球』はその大いなる存在が作った美しい『箱庭』だ。


『箱庭』には、そこでさまざまな体験をしたい『魂』がやってくる。大いなる存在の中にある、時間や束縛とは無縁の存在が、『有限』と『幸せ』を体験したくてやって来るのだ。


『大いなる存在の一欠片=魂』は『箱庭』で有限の時を過ごす衣をかぶる。その衣は『人間』という衣だ。

『魂』は『人間』という衣を着て、『有限』と『幸せ』をその限られた生の中で体験する。人間という生身の感触はリアルでスリリングで、幸福に満ちている。

 困ったことに、この様々な『人間の衣』はあまりに魅惑的なため、着ている本人すら中身の『魂』のことを忘れてしまう。


 そしてその有限な人間の時間が終わりを告げた時、また『魂』は『大いなる存在の一欠片』として戻って行く。


 何も恐れることはないのだ。ここは大いなる存在が作った美しい『箱庭』なのだから。


 はてしない漆黒の空間を、小さな青く光る欠片がある一点に向かって勢いよく飛んでいく。よく見ると広大な空間に、無数の同じ青い欠片が同じ方向に向かって進んでいた。すごい数だ。

 それは勢いを増して同じ場所へと進んで行く。

 その先に光があった。全てのものを呑み込んでしまう大きな光だ。


 光は巨大な意識、または知識・経験、叡智えいちだ。


 小さな青く光る欠片は全てそこに向かっている。欠片が光に飲み込まれると、欠片が持っていた経験や知識は光に共有された。光に同化した欠片の持っていたものが全て取り込まれたのだ。


 すると光が分裂して、小さな小さな白い光が飛び出して行った。

 よく見ると収束する青い光と対照的に、出ていく白い光も無数にあった。

 白い光はまるで意志があるかのように真っ直ぐに飛んで行く。

 もう行く場所を決めてあるのだ。


 白い光は一瞬にして飛んで行く。大いなる意識が造った美しい『箱庭』へ。

 その美しい『箱庭』で新たな経験をするのだ。

『箱庭』の中では、すべては有限であり、美しい。


 光は『意識』となり『魂』となって、新たなる肉体という衣をまとう。

『肉体』という不自由な条件と制約を付けた衣を着るのだ。

 新たなる『魂の経験』のために。

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