冒険者になれなかった俺はギルドの掃除屋となる

山田空

ギルドのそうじ屋

貧しい街の中寒さに震えている一人の男がいた。


その男は段ボールに身を包まれている。


この世界は剣と魔法が存在する王道なファンタジー世界だ。


そして彼は異世界に召喚されたことにより力が目覚めることのなかった。


いわゆるはずれ異世界人だった。


そのため金を稼ぐ力もない可哀相な運命をたどっていた。


そんな男に一人の少女が話しかけた。


「ねえだいじょうぶ?」


そういって男の顔を心配そうに覗き込まれる。


「ええだいじょうぶですよ」


男は無理やり笑みを作る。


「なあ行くところがないなら我が拾ってやろうか」


その少女は男に手を伸ばした。


その手を男は掴む。


こうして男のギルドの掃除をする生活が始まった。


それがこの俺山田 健太(やまだ けんた)のはじまりの物語だ。


俺はギルドの隅っこで掃除をしていた。


ガヤガヤと騒がしいギルドを端から見ていてうるさいなあという気持ちだった。


俺はほうきをもってゴミを集めていく。


ジュースの紙パックなど現実世界でもあったものが捨ててあったりするのでそれをほうきを使って集めていく。


もちろん異世界らしいゴミもある。


例えば魔物との戦いによってこぼれ落ちた剣の破片等だ。


魔物や冒険者の血が垂れているため床が汚れているから雑巾を使ってふいていく。


男であるためギルドの受けつけは任せてもらえなかった。


人に来てもらいやすくするために女性にしているらしい。


あと問題を起こしてもすぐに対応してもらうため強い女冒険者が採用されやすいらしい。


ますます俺とは違う。


俺は村人とそこまで身体能力が変わらない。


一応最近筋肉がつきはじめているがやはり他の冒険者と比べるとそこまでだ。


それに掃除屋だってあまり人がやりたがらない仕事のため給料はかなりいい。


「よお健太」


嬉しそうに俺のほうに駆け寄ってきたのはこのギルドのギルドマスターだ。


そして俺を拾ってくれた恩人であり初恋相手だ。


もちろん俺みたいなのがこの人にほれてもらえるなんてことは思ってはいない。


だからこの気持ちは隠している。


おっと話がそれてしまった。


「はいリーンさん」


「おう」


嬉しそうな笑顔を浮かべるマリアット·リーンを見て俺も嬉しく思う。


リーンさんはエルフであるためからだの成長が遅く小学生ぐらいの見た目だ。


だがこう見えてリーンさんは初代魔王を倒したことのあるほどの実力を持ち合わせている。


ちなみに今の魔王は5代目らしい


それぐらい強いはずなのになぜ冒険者として暴れないのかむかし聞いたことがあるのだが


「我はずっといられるわけではないそもそも初代魔王を倒したときでさえ慣れ行きだしな」


そういっているのでいつかこのギルドからも消える気持ちらしい


「まあ成り行きで100年たった今でも我はここにいるわけだがな」


でもやはりそうはいいながらもいつか消えそうで俺は少し怖い。


好きな人にもう会えないなんてなったらいやだからな。


リーンさんが俺のからだをさわってくる。


「はっはっ鍛えているんだな固いではないか」


俺のお腹辺りをさわっている彼女はどこか笑顔だった。


「そりゃ俺だって冒険者になるために強くなりたいですからね」


「うふふそうかそうか嬉しいぞ」


まあ本心を言うなら単純にリーンさんを守れるほどに強くなりたいと思っているだけなんだがな。


「それじゃあまた今日も相手お願いできますか」


「クックッいいぞ」


俺はリーンさんに強くなるための特訓をしてもらっている。


リーンさんに認めてもらえるぐらい強くなれたら冒険者デビューをするつもりだ。


そして冒険者になったらリーンさんに告白をしたい。


「それじゃあ我は部屋で待っているから掃除が終わったら来なよ」


「はい」


そのあと俺は黙々と掃除をしていた。


魔物が死んだあとの死体処理などいろいろ面倒くさい雑務が主に掃除屋としての仕事だ。


ちなみにかなり疲れるだろと思うかもしれないがリーンさんの回復魔法によって体力が回復して動くことが出来る。


リーンさんの回復魔法はけが以外に病気や疲れなども直すことが出来る。


いろいろな雑務処理を終えたあと俺はリーンさんのところに行く。


「よおまっていたぞ」


俺が扉を開けて部屋に入ると嬉しそうにしてくれる。


「汚れているな洗ってやるから風呂に一緒に入ろう」


「え?一緒に」


「なにを驚いておる久しぶりとは言え何回か洗ってやっただろう」


「……いやまあそうなんですけど」


ヤバイすごい恥ずかしい。


「それじゃあこい」


「はっはい」


俺はリーンさんに引っ張られてお風呂場までつれていかれる。


ちなみに風呂場はギルドマスターの部屋にある。


リーンさんは面倒なことを省きたがる性格なため疲れたときにさっさと家に帰らず風呂に入りたいというリーンさんの意見から作られている。


ちなみに俺に特訓をしてくれたりお風呂場で洗ってくれるなどいろいろやってくれるがこんなにやってもらえるのは珍しいと他の人からきいたのでリーンさんについ質問をしてしまった。


リーンさんが俺の背中を洗ってくれるなか俺は質問をする。


「なんでこんなに俺みたいなのに気にかけてくれるんですか」


数分ぐらいの間を置いてリーンさんが言葉を紡いでくれる。


「ふむきみだからかな手のかかるやつほど可愛く思うというだろう」


グサッ確かに言うけどやっぱりリーンさんからしたら手がかかると思われているんだな。


「本当にすいません」


「うん?なんで謝るんだい」


「だって迷惑をかけてばかりじゃないですか」


「いや前も言っただろうきみには誰もやらないような仕事ばかり任せていると」


「……まあそうですけど」


「だから我は助かっているよ」


「でもこんな俺のことを洗ってくれるなんて」


「これも我なりの恩返しのつもりでやっているんだいやならやめるけど」


「いえ嬉しいです」


「クックッ喜んでもらえているなら嬉しいねえ」


やべえ緊張して手が震える。


好きな人にからだを洗ってもらえるなんて何度もやってもらっているけどやはり慣れるものではない。


「うむ健太話を聞いてくれるかい」


「はいなんですか」


「いやねえきみには話しておこうかと思ってね」


「話ですか」


「ああ我がおまえを拾った理由」


「……それは手がかりそうだったからじゃないんですか」


「はっはっそんなの見ただけじゃわからないよ」


「……確かにそうですねそれなら教えてもらえますか」


「ああ任せてくれ」


こうして俺はリーンさんの過去を教えてもらう。


「我は幼くして勇者パーティーに入れられたもちろん断ろうとしたさだがみんな嬉しそうにするそんな顔を見たら断りずらかったんだ」


「そこで勇者パーティーの誰かと魔物との戦いによって死にわかれをすることになったんですか」


「あっいやそれはなかった」


「じゃあなんですか」


「だけど我と勇者パーティーとの絆は冒険をしていくなかで深まっていったそれゆえに我は勇者パーティーとの別れが辛かった」


「あっ背中を洗うので変わってください」


俺は椅子から立ち上がりリーンさんの後ろに周り背中を洗う。


柔らかくてすべすべしていて可愛らしくて若々しいからだだった。


ちなみにおっぱいは小さかった。


「そこで勇者が我のことを気を遣って像をたててくれたんだ」


「像?」


「ああ勇者の像だ」


「あっいやそういう話のつもりで言ったんじゃまあいいですどうぞ」


「そして勇者は伝説として語り継がれて我が忘れることはなく記憶の中で生き残り続けておる」


「あれ?俺を拾った理由ではなくね」


「いや理由だよ我は300年生きたエルフだそしてその中で一番印象に残った顔が勇者だった」


リーンさんが俺のほうを振り向いてくる。


俺は驚いてしまう。


だが次の瞬間リーンさんが俺の顔をさわってくる。


はわはわと俺はあわてふためく。


「この顔は勇者の顔だそれに勇者には約束をされていたんだぼくの親戚がいつかきみに会いに来るかもしれないその時は頼んでもいいかいってね」


「でも俺って勇者の力が1つもありませんよ」


「いやきっと勇者の子どもの姪の息子の子どもの子ども辺りなんじゃないかな」


「うんそれもはや勇者の血が流れているって言っていいのかなつうかそれだったらなんで俺の顔が勇者の顔に似ているなんてわかるんだよ……あとお風呂入らせてもらっていい」


リーンさんが俺の頭についているシャンプーをシャワーで流してくれる。


「おうありがとう」


俺もまたリーンの頭についているシャンプーをシャワーで流す。


そしてゆったりと湯船に浸かる。


湯船は大きくて3人ぐらいなら余裕で入れそうだと思った。


「いやあの言うべきか思っていたんだけどな話の腰を折るのやめてくれんかな?」


「いやこんなお風呂場で真剣な話をするのが悪いだろ本来こう言うのはソファーとかに座ってやるものだろ」


「だって仕方がないじゃろ血で汚れておって気になっておったんじゃから」


「そうかもしれませんけど」


ちなみに俺とリーンさんは対面しているためリーンさんのからだをまじまじと見る体勢となっていて恥ずかしい。


俺たちの間には気まずい空気が走っていた。


「禁術というものを知っておるか」


リーンさんが質問をしてくるなんて珍しいなと言う気持ちで答える。


「聞いたことはあるなたしか封印された魔法のことだろ」


設定からして中二心がくすぐられるぜ。


「では見せましょうか」


「え?それってどういう」


リーンさんが突然立ち上がったと思ったら魔方陣を描きはじめる。


だがその魔方陣は俺の見たことのあるものではなかった。


リーンさんはこう呟く。


「禁断魔法 獏:バク」


「えっなにを」


俺は驚きそんな言葉をこぼす。


すると次の瞬間辺りが輝く。


俺は目をつむる。


そのあと薄目でだいじょうぶかなと確認したら白い煙が風呂場を囲っていた。


俺はその煙が消えないかと腕であおいでみるが消えない。


視界がグルグルと回りだす。


頭がチカチカとなる。


「この魔法は人を眠らせて人の寿命を食べるちからを持つんですよ」


「なんで……俺を」


「それはあなたが我に合う肉体だったからだ」


「じゃあずっと俺のことを助けてくれていたのは」


「……ああお前を食べるためさ」


「そんなのねってねえよ」


俺は怒気の混じった声でそうこぼす。


やがて俺は湯船に沈んでいく。





我の名前はマリアット·リーン


我には秘密がある。


我は大切な人と死にわかれることがいやだった。


その気持ちは我に禁断とされる魔法を手に出させるほどの気持ちに膨れ上がっていた。


我が産まれたのは静かな森の奥地だった。


そこで我は両親に育てられていた。


そのあと数十年の時が流れて我の両親は魔王によって殺された。


エルフは長寿だ。


だから死に別れるとしたら誰かに殺されるぐらいしかなくそんなことが出来るのは魔王ぐらいだと思っていた。


だから我は突然両親を殺されて気持ちが壊れていた。


そんなときに助けてくれたのが勇者だった。


勇者は我のことを気にかけてくれていた。


数十年と言う月日をかけて旅をし我らは魔王を打ち倒した。


ようやくという気持ちが強かった。


だが我は気づく。


周りを見る。


我以外のみんなは少しずつ老いていっていたことを具体的には10代から30代ぐらいになっていたことに気づく。


やがて迫る我と勇者との別れ


それはなんとなくいやだった。


両親との別れを思い出す。


そして勇者は残りの時間をつくってたくさんの思い出と死んだあとも覚えていられるようにいろんなものを作ってくれた。


そして我は勇者と死に別れた。


きっとこういう別れを何度もすることになる。


ああいやだ。


一人で生きていくなんていやだ。


それなら……それなら我は禁術に手を出したい。


その名前は禁術 獏:バク


相手を眠らせてそのあと魂を奪い取るという代物


なぜ眠らせるのかそれは死ぬときも苦しくしないためらしい


その魂は誰かに付与することが出来る。


付与された人は奪われた人の魂の分いきることが出来るが我にはそれは魅力的には写らなかった。


我が興味を持ったのは魂を奪い取る行為そのものだ。


我はそれを使えば勇者とずっと一緒にいられると思った。


そして勇者が死んだあと後悔と共に生きていた。


もしも勇者にバクを使っていたら死ななかったんじゃないのかそんな気持ちがあった。


そんなときに出会ったのが山田健太だった。


我が街を歩いていると今にも死にそうな顔で壁にもたれ掛かっている男がいた。


心配になり我は話しかけた。


「おい坊主だいじょうぶか」


健太はまるで勇者みたいな笑顔でこう返された。


「ええだいじょうぶですよ」


勇者みたいな無理をした笑顔


その笑顔を見たときに我はなんとなく勇者に似ていると思った。


笑顔だけではない性格や行動なにもかも似ていた。


力こそ勇者とは違ったが確かに健太は勇者に似ていた。


我が勇者にバクを使っておけば勇者とずっと一緒にいられたのにという後悔が我の禁術を使いたいという気持ちに誘導する。


だからこれで正しいはずなのにそれなのになぜじゃなぜこんなにも胸が苦しめられるのじゃ


いや本当はわかっていた。


本当は魔法に頼るべきではない。


禁術に頼るべきではなかった。


それなのに我は我自信の気持ちのためだけに何人もの人をこの禁術を使って閉じ込めてきた。


本来なら許されることではない。


その後悔が我を押し潰す。


我は禁術を解いた。


こんなことをやったところで意味がない。


そのことにようやく数百年と言う年月を経てようやく我はその考えにたどり着けた。


そのきっかけは我が禁術に手を出した理由である勇者によく似た青年だった。


「本当にすまなかったなあのときは」


「あははいいですよ別にもう終わったことですからまあ俺以外の人たちはすっごい怒ってましたけど」


「……そうじゃったなじゃがあやつらの言う通りじゃった我はあやつらの大切なたった1つの人生を無駄にしたきっとあやつらと会いたいと言う人もおったはずなのに」


「だから贖罪のために今がんばっているんでしょう」


「……ああそうじゃったな」


我は歩く。


勇者によく似たこの青年と一緒に幾千年も幾万年もの時間を我の魂を青年に分け与えることで共にいきることを選ぶのだった。


その青年は勇者みたいな特別な力があるわけじゃない賢者のように頭が特段よいわけでもない。


ただ1ついえるのは彼は努力をし続けることの出来る真面目な青年だと言うことだけだ。


勇者に良く似た青年と勇者の元仲間であるエルフは罪滅ぼしのため人々のためにいろいろなことを行った。


そしてやがて人々は彼らのことを町をきれいにしてくれる掃除屋と呼ぶようになりましたとさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

冒険者になれなかった俺はギルドの掃除屋となる 山田空 @Yamada357

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ