呪殺バトル④

土曜日 PM 11:40

遅念ちねんはイオリとの呪殺バトルの会場として選んだ、とある廃墟ビルの1階にやって来た。遅念の後ろにマドカ、カイト、コココが続く。ガラスが割れた大きな窓のそばに、グレーのロングコートを着たイオリがたたずんでいた。


何十年も使われていないビルで、床にはゴミが散乱し、柱や壁、天井はコンクリートがむき出しの状態。光源は窓から入り込む月明かりのみ。



イオリ「先生、今回は大遅刻ですね。廃ビルで40分も待たされると、さすがに参っちゃいますよ。オバケ出そうで怖いですし」


遅念「ごめんねぇ。どの儀式をやるか決めるのに時間がかかっちゃって」


イオリ「……後ろの子たちがゼミ生ですね?なら僕の後輩だ。よろしく、僕は断花たちばな イオリ。遅念先生には8年前まで真里孔マリアナ大でお世話になっていたんだ」



遅念の肩越しにイオリをにらみつけるカイト。家族の仇を目の前にして今にも飛びかかりたい気持ちが強まるが、イオリの始末は全て遅念に任せると約束している。高ぶる感情を何とか抑え込む。しかし体の震えが止まらない。


力が入るカイトの右肩にマドカが触れた。強く握ったカイトの左手にコココが触れる。2人はカイトの怒りを感じ取り、抑える手助けをしているのだ。2人に触れられたことで冷静になるカイト。まるでマドカとコココに怒りが分散されたかのよう。体の震えも気がついたら止まっていた。


5mほど離れ、向かい合うように立つ遅念とイオリ。



遅念「勝負の前に言っておくことはあるかい?勝とうが負けようが、死ぬのは確定しているからねぇ」


イオリ「そうですね……『降霊』と『憑依』の研究において権威と言われる先生を殺せることを誇りに思います。しかも僕が考えた最強の儀式で」


遅念「まるで僕だけが死ぬような口ぶりだねぇ。キミも死ぬんだよぉ?」


イオリ「先生を殺せることに比べたら、僕の死など取るに足りません」


遅念「そっか」


イオリ「先生こそ、言っておくことは?」


遅念「……イオリくん、キミと僕は同じだと言っていたよね?似たもの同士だとも」


イオリ「ええ。そのとおりでしょう?」


遅念「悔しいかな、キミと話してみて僕もそう思ってしまった。でもこの1週間、改めて儀式を研究する中でやっぱり違うと思えたんだ。この勝負でキミと僕は全く違うタイプの人間だとということを証明しよう」



遅念は顔だけを後ろに向け、マドカ、カイト、コココのほうを見る。



遅念「みんな、死ぬ前に謝っておく。付き合わせちゃってごめんねぇ」



遅念はイオリのほうに向き直る。そしてズボンのポケットから小さな藁人形と五寸釘を取り出した。



遅念「この藁人形にキミの髪を織り込んでいる。これに五寸釘を突き刺す。いつも僕が呪殺のときにやっている儀式さ。新しい儀式を開発することも考えたんだけど、やっぱり最後はやり慣れた儀式で戦いたいと思ってね」



小さく笑うイオリ。



イオリ「なぁんだ。がっかりさせないでくさいよ、先生。まさかそれが僕との違いだなんて言いませんよね?自分のスタイルにこだわり続ける信念や、儀式に代償を使わないことが僕との違いだなんて」



イオリは遅念から見て右方向に歩き始める。そして一番近くの太い柱の陰に隠れた。キュルキュルとキャスターが回転する音が響く。柱の死角から、全裸の男性が立ったまま磔にされたストレッチャーを押しながらイオリが姿を現した。


男性は全身の毛を剃られ、目と口をガムテープで覆われている。逃げようと暴れるが、手足と首、腰をロープできつく縛られ身動きが取れない。ロープがこすれ縛られた箇所から出血していた。男性の腹部には無数の切り傷。傷は呪殺の儀式に使われるまじない文字を形成している。



遅念「その人は……?」


イオリ「僕にも遅念先生にも無関係の人間です。儀式の代償として使います。人間の命を使った儀式で呼び出せる悪霊は非常に強力ですからねぇ。あっという間に人を死に至らしめる、猛毒のような邪気を放つ」


遅念「……」


イオリ「文句はありませんよね?最強の儀式で勝負しろと言ったのは先生ですから」


遅念「……ああ」



イオリは男性の口に貼られたガムテープを思い切り剥がした。その瞬間、男性は「助けてくれぇ」と大声を出す。イオリは男性の腹部を殴り、黙らせた。


イオリはコートのポケットからチャック付きのビニール袋を取り出す。入っているのは遅念の髪。チャックを開け、指で髪をつまんだイオリは、男性の口の中に髪を入れ、再びガムテープを貼った。そして左手をストレッチャーの裏に回す。その手にはサバイバルナイフが逆手に握られていた。



イオリ「僕の儀式はこれで準備完了です。この儀式を対象者から10m以内の距離で実行した場合、死ぬまでにかかる時間は平均1分21秒。先生の儀式は、この時間を上回れますか?」



遅念はイオリから視線を離さないようにしたまましゃがみ、藁人形を床に置く。そして五寸釘を右手に握った。



遅念「努力するさ……では呪殺バトル、よーい……スタート」

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