疑惑③

月曜日 PM 5:10

真里孔マリアナ大学 遅念ちねんの研究室

オフィスチェアに腰掛け、ニコニコと微笑む遅念。デスクを挟んで正面、パイプ椅子に座るマドカ、カイト、コココ。マドカとカイトの表情は至って普通だが、コココは遅念をにらみつけている。



遅念「3人そろって話があるなんて珍しいねぇ。何かあった?コココさんなんて獲物を見つけたジャガーみたいな顔しちゃって、どうしたのぉ?」


マドカ「火我ひが先生からの依頼で、遅念先生に伺いたいことがあって来ました。このサイト、ご存じないですか?」



マドカはスマートフォンの画面に、くだんの『降霊』と『憑依』の儀式を紹介しているサイトを表示させ遅念に見せつける。画面に顔を近づけ、目を細めてサイトを眺める遅念。



マドカ「火我先生が見つけたサイトです。儀式の手順が100以上、実際に死んだ人の写真と一緒に掲載されています。このサイトを運営しているのが遅念先生ではないかと、火我先生は疑っているんです」


コココ「本当のところどうなん?先生」



遅念は画面から顔を離し、椅子の背もたれに体重をかける。



遅念「結論をから言うと、そのサイトは初めて見た。僕が作ったものではないよぉ」


コココ「嘘ついてないやろな?」


遅念「嘘じゃないよぉ。もし信じられないなら、僕が持っている端末のサイトアクセス履歴を全部見せてもいい。そのサイトは出てこないからねぇ。エッチなサイトは出てきちゃうけど、ははははは。だからコココさん、肩の力を抜いて」



遅念は身を乗り出し、デスクの向こう側のコココの左肩をポンポンと2回叩く。コココの表情が緩んだ。



コココ「なんだぁ、先生が犯人ちゃうんかぁ。ぶん投げんで済んで良かったわぁ」


カイト「なら、こんなにたくさんの儀式を知っている人が遅念先生以外にもいるってことっすか?」


遅念「……ああ。前にゼミで僕が憑依事案を解決してる理由を話したの、覚えてる?」


マドカ「会いたい教え子がいるからって言ってましたよね?今も『降霊』と『憑依』の研究をしてるかもしれない人」


遅念「そう。8年前、僕が初めて自分のゼミを持ったときの教え子でねぇ。名前は断花たちばな イオリ。本当に熱心な男の子で、僕が教えることをどんどん吸収していった。僕も彼が成長していくのを見るのが楽しくて、知っていることは何でも教えたんだよ。呪殺のやり方もね」


カイト「……でも先生、呪殺はゼミ生にやらせないって言ってましたよね?」



遅念は左手であごひげを触る。



遅念「ああ。そう考えるようになった原因がイオリくんだ。彼は身近な人々を対象に『降霊』と『憑依』の儀式を試し始めた。苦しめるだけでなく、呪殺もしていたよ。しかも僕が教えたことをベースにオリジナルの儀式をいくつも作り出してね。僕ですら解決方法がわからないものもあった。イオリくんの件があって以来、ゼミ生に呪殺の方法は教えないようにしてきだんだ」


カイト「……」


遅念「最近になって、イオリくんが全国展開しているゼネコンで働いていることがわかった。おそらく建築物の内部に儀式を施して、より大規模な『降霊』と『憑依』を実行するためだろう。大学時代にはできなかった研究と実験を、彼は今も続けているんだと思う」


カイト「じゃあその断花 イオリって人が」


遅念「さっき見せてくれたサイトを作った張本人かもしれない。僕の心当たりは彼だけだねぇ」



カイトは膝の上で右の拳に力を入れる。何か言いたげなカイトを横目に、マドカが先に口を開く。



マドカ「イオリさんの目的は何なのでしょうか……?」


遅念「それを今度確かめる。週末、イオリくんと会う予定を取り付けた。彼の今の勤務先を突き止めて連絡を入れてみたら、すんなりOKしてくれたよ」



カイトは拳に力を入れるのを止め、遅念の両目を真っ直ぐ見据える。



カイト「先生、俺も同席させてください。ソイツ、俺の家族を殺してる」



カイトは自身のスマートフォンで、サイトに載っていた家族の死体の写真を遅念に見せる。目を丸くする遅念。



カイト「俺の父親と母親、10歳だった弟です。なぜ俺の家族を狙ったのか、イオリってヤツに話してもらう。そして」


遅念「呪殺する。カイトくんがずっと呪殺の方法を知りたがっていた理由が今わかったよ……気持ちはわかる。けど同席させられない」


カイト「なぜ!?」


遅念「イオリくんは誰彼構わず躊躇なく儀式の対象にしている。もしカイトくんが直接会って彼に体の一部を取られたら呪殺されてしまうかもしれない」


カイト「それは先生も同じじゃないですか!」


遅念「僕にはイオリくんに人を殺す力を与えてしまった責任がある。もし彼に殺されたとしても因果応報として受け入れるさ。それにただでは死なない」


カイト「……何をするつもりなんです?」


遅念「ヒ・ミ・ツ。でもカイトくんにとって悪い話ではないよぉ。むしろ喜ばしいことさ。とりあえず僕がイオリくんと会うまでキミたちは何もせず待っていてよ。詳しいことは彼と会った後に話すから。まぁ、僕が生きてたらだけどねぇ」



サイトの運営主が遅念でないことがわかり、椅子から立ち上がって研究室の入口へ向かう3人。後ろから遅念が「カイトくん」と呼び止めた。足を止めて振り返るカイト。マドカとコココは先に研究室の外へと出る。



遅念「ご家族のことは残念だった。でもキミが復讐に囚われる必要はない。キミはキミなりの幸せに向かって生きるべきだ。復讐の果てに幸せはないよ」


カイト「……幸せなんてどうでもいい。何があっても、俺は自分の手で片を付けたいと思ってます」


遅念「だとしても、僕は教え子に呪殺はさせない。前にも言ったように、呪殺をやるのは僕の役割だ。キミの手は絶対に汚させないからね」



<疑惑-完->

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る