ペンギン
stdn0316
第1話
「ペンギンが来たぞ」
誰かが言った。そうか、と思った。夏の暑い昼間だった。
玄関を開けると、数人の大人が何かを囲んで覗き込んでいた。
「ペンギンが来たぞ」
そのうちの一人がこちらを見ずにそう言った。
近づくと、彼らが輪を崩し、囲まれているものが見えた。
それはペンギンではなかった。
姿形は似ているが、体毛はまばらで腕は異常に長く地面へとだらしなく垂れ下がっている。
不自然なほど大きく見開かれた真っ黒な目が、誰かを探すように落ち着きなく周囲を見回していた。
「子どもが喜ぶだろう、近所の家に声をかけてこい」
誰かが言った。
これは、ペンギンではない。子どもには見せられない。もし見せたら...
振り返ると同時だった。
「どうした?」
ペンギンと同じ目をした大人たちが、おれを見つめていた。
「子どもが喜ぶだろう」
茹だるような夏の暑さの中、おれは歩き出した。
あれを見せることでこれから起きることの全てが、おれの所為になるのだろう。
背後で鳥のような何かの鳴き声が聞こえた。
ペンギン stdn0316 @stdn
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