一から十羽と命令

@curisutofa

一から十羽と命令

『コーッ、コケッコケッコケッ』


ジイッ。ジイッ。


『コケッコケッコケッ』


家臣の女騎士リッテリンとして、御主君であらせられます女男爵バローニン閣下に御仕えさせて頂いております城館内の中庭では、毎朝新鮮な鶏卵を入手する為に複数のニワトリを飼育していますが。


『コケッコケッコケッ』


ジイッ。ジイッ。


私との間に愛娘を儲けている、帝国騎士ライヒス・リッター身分にて二箇所の御領地を治める父親が、トホターを腕に大切そうに抱きながら、一目で血の繋がっている父娘だと解る同じ色合いの瑠璃之青アツーア・ブラオの瞳で、中庭のニワトリの様子を眺めています。


『コケッコケッコケッ』


『うーーーんっ?』


父親の腕の中で幼いトホターが何かを伝えようとしますと、金髪ブロンデス・ハールを揺らしながら愛娘に対して頷いて。


アインスツヴァイドライフィーアフュンフゼクスズィーベンアハトノインツェーン。全部で10羽いますね』


ニパアッ。


父親がトホターである自分が何を伝えたいのか正確に理解したと解ると、実の母親から見ても可愛いらしいと感じる、屈託の無い満面の笑みを見せて。


『うーーーんっ』


『コケッ!』


父親の腕の中に抱かれながら、中庭のニワトリに向けてトホターが何かを言うと、一斉に鶏舎けいしゃに向かい戻り始めました。


『私達の愛娘は、ニワトリに命令を出来るのですか?』


不思議そうに尋ねる父親に対して、母親の私は笑顔で頷き。


『父親に似て、周囲を従える素質を生まれ持ったみたいよ♪』


『成る程』


素直に私の言葉を受け入れると、腕の中に抱いている愛娘の、父親から受け継いだ金髪ブロンデス・ハールを優しく撫でながら。


『貴女は母親に似て、周囲を従える素質を生まれ持ったみたいですね』


ニパアッ。


私達の会話の意味を理解するにはまだ幼すぎるトホターですけれど、父親に対して同意する可愛いらしい笑みを見せる姿からは、周囲を魅了して従える素質の持ち主であると感じさせました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

一から十羽と命令 @curisutofa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ