偽オメガのオレが、太陽の王太子に溺愛されて王妃になる羽目になったワケ

天田れおぽん@初書籍発売中

第1話 第一話 偽オメガ、王妃選定会場に潜り込む

「私に愛されたいオメガ男子たちよ、王宮へようこそ!」

 

 キラッキラの煌びやかな舞台上に、キラッキラな王子さまが、足取り軽く現れた。


「うわぁ~、本物のアイセル王太子だぁ~」


 貧乏男爵家の長男、トゥイヤ・レッティは、感情の読み取りにくい細い目を更に細めると、口元に弧を描いた。

 今日は優性アルファの王太子、アイセルの妃を決める夜会の日である。

 トゥイヤはオメガではないが、アイセルのファンなので、嘘をついて会場に紛れ込んだのだ。


(罪悪感がないとは言わないが……来週には貧乏な男爵家を救うために、北の魔獣退治へ旅立たなきゃいけないんだ。命の保証のない旅へ出る前のちょっとしたお楽しみくらい、許されるだろう)


 トゥイヤはオメガ男性たちに混ざって、一番後ろからアイセルに向かって歓声を送った。


「よく来てくれたね、オメガ男子たち~」


 アイセルが両腕を上げて手を振りながらアピールすると、来客から黄色い声が上がった。


「アイセル王太子さまぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「素敵ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

「オメガイル王国の英雄!!!」


 ムンムンとオメガ臭が立ち込める夜の大広間は、シャンデリアの輝きとアイセルの輝きでペカァァァァァッと太陽のように光っている。

 金色に見える貴族服は王太子の色である白地で作られていたが、金モールや金刺繍、キラキラ光る黄色の宝石で飾られていていた。


「今日は、私のお妃選びをするよ! 我こそは妃に相応しい、と思っているオメガ男子! アピールよろしく♪」


 肩の高さで両腕を広げて大きな手のひらを来客たちに向けて振りながらウインクするアイセルに、会場にいるオメガ男性から更に大きな歓声が上がった。


「私は性欲旺盛な上に、力強い愛し方をする男だ。そして、浮気は当然の権利だと思っている! そんな22歳男性の性欲を受け入れてくれるオメガ男子たちが、こんなにいるなんてっ! 感激だっ! ありがとうっ!」


 会場にいるオメガ男性たちは口々に、アイセルの言葉に答えるように叫んだ。


「なにをおっしゃいますやら、オメガイル王国の英雄さま!」

「アイセルさまが瘴気を払ってくださったから、国の危機が去りました!」

「国を救った英雄王子のお妃さまになれるのなら、喜んで駆けつけますよっ!」


 アイセルは歓声にこたえるように手を振ったり、投げキスをしたりしながら言う。


「ありがとうみんなー!」


 笑顔を振りまくアイセルは、どちらかといえば女性的な美貌をしている。

 だが体は、それを裏切るようにデカい。

 身長は高く、筋肉にも恵まれていた。

 肌は日焼けを知らぬように白く、小さめの整った顔には青い瞳がはまっている。

 長く伸ばした金髪も、人好きのする無邪気な笑顔も、キラッキラに輝いていた。

 陽気で頼れる性質を持ったキラキラ王子であるアイセルは、輝きで瘴気を払うことができる英雄でもある。

 実際に彼は、国内のあちらこちらに発生した瘴気を払ってみせたのだ。

 大規模に発生した瘴気を払うことに成功して国を平和に導いたアイセルは、王太子としての次の仕事に取り組むこととなった。

 未来の王妃選びと、世継ぎ作りである。

 そこで大問題が発覚した。

 アイセルの性欲が半端なく、愛し方は力強いため、女性では体力が持たないということが夜伽係の報告で判明したのだ。

 人数を揃えて対応するという案も出たものの、国王の相手をするからには誰でも良いというわけにはいかない。

 後継者争いを避けるためにも、世継ぎは欲しいが人数が多過ぎても困る。

 そこで女性に比べたら体力のあるオメガ男性を、王妃に迎えることが決まったのだ。

 

「いずれも美しく、魅力的なオメガ男子ばかりで、私は嬉しいよ。選ばれるのは、キミかもしれないし、キミかもしれない。王妃は1人だが、側妃の座も用意されているからね。期待してくれたまえ!」


 会場となっている王宮大広間は、ワーーーーッという、オメガ男性の歓声に包まれた。


(王妃や側妃に選ばれたら……金の心配なんてしなくていいんだろうなぁ……まぁ、オレが選ばれることなんてないから関係ないけど)


 トゥイヤは複雑な気分で、トゥルゥットゥルゥッのツヤツヤの華やかなオメガ男性たちを眺めた。

 王宮大広間に集められたのは、オメガ男性といっても貴族の令息たちだ。

 身分もあれば金もある家の者が多く、美容にも気合が入っている。

 なかには化粧をしている者すらいる。

 トゥイヤのように、バサバサチリチリのトウモロコシの毛みたいな髪をした者はいない。

 手入れの行き届いた髪と肌、質の良い服に輝く宝石。

 そのどれもが、トゥイヤには縁のないものだ。

 嫉妬すら湧かない。


(あの宝石があれば、弟たちに腹いっぱい食わせてやることができるんだろうなぁ……王立学校にだって通わせてやることができるのかも。王立学校を出れば、選べる仕事だって増えるよなぁ……)


 貴族令息ではあるものの、子だくさん貧乏男爵家の長男であるトゥイヤにとっては、美容や学歴よりも、今日食べる食事を用意するほうが重要だ。

 外仕事もしているトゥイヤは、もともとの肌色は白いのだが、まだらに日焼けしていてソバカスも目立つ。

 20歳で力仕事もするわりには食生活が貧しいせいで体は細いものの、オメガ男性たちに比べたら2回りほど大きい体をしていた。


(アイセル王太子はデカいから、並んだらオレでもオメガ男性に見えるかも)


 とはいえ、トゥイヤは美貌にも恵まれてはいない。

 テキトー感が溢れる目じりの垂れた細い目には、これまた地味で曖昧な色の茶色の瞳がはまっている。

 性格は、お調子者で軽率。


(まぁどうせオレなんて、王子さまの好みじゃないだろうし。テキトーに美味しい物でも食って帰ろ♪)


 トゥイヤは気持ちを切り替えて、踊りだした王太子に陽気な声援を送った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る